cubic in another

『START DASH SENSATION』から大空あかりの物語を読む (改訂版)

※あまりに出典不明瞭な箇所が多いので、「目覚めてる夢に向かって」に続いてこちらも修正しました。(2017.07.25)

 

 『アイカツ!』という作品の大きな特徴の一つとして、物語と楽曲の関連性の高さが挙げられます。「アイドルオーラとカレンダーガール」「目指してるスター☆彡」「私が見つけた最初の風」など、曲名や歌詞の一節をサブタイトルにした話も多く、ステージシーンで使われる楽曲も、キャラクターの成長や個性の表現に欠かせないものとなっています。

 本項の主旨は、そんなアイカツ楽曲の歌詞を分析することで、物語への理解を深めようというものです

 当然ですが、ここで述べることは一つの解釈であり、絶対的なものではありません。というかそもそも正解なんてありません。『アイカツ』という作品をより深く理解し、自分なりの見方を構築する助けとなる一つの視点を提供できればと思います。

 

1)『オリジナルスター☆彡』と『START DASH SENSATION』

 さて、大空あかりのスタートと呼べる地点はいくつかありますが、77話「目指してるスター☆彡」もその一つであるといえるでしょう。星宮いちごの真似ではない、大空あかりというアイドルのはじまり。「自分の光を大事にしなきゃ」と決心し、おしゃもじを机にしまい、思い切って髪を切ったのでした。このエピソードと『オリジナルスター』は、あかりと『START DASH SENSATION』とについて考える上で、欠かすことができません。

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 『START DASH SENSATION』は『オリジナルスター』のアンサーソングとしての一面をもっています。『オリジナルスター』の歌詞にはこうあります。

なりたいビジョン 自由自在に
いつか絶対!
自分との約束
オリジナルスター 目指していこう☆彡

そして『START DASH SENSATION』には

アタマのなか膨らむイメージ
カタチにしたら世界でひとり
あたらしいわたしになれる
大好きで育てなくちゃ

こうして並べてみると、対応していることがわかります。自分だけの光、オリジナルスターを目指そうと志した77話から、生まれかわって「世界でひとり」の「あたらしいわたし」になった177話までの物語が、ここには凝縮されています。

 すると、次の「未来向きの今をキミに見せるね」は、77話時点の自分自身に宛てたものとも解釈できますし、その後に「いつだってココロに光る太陽 忘れないの」とあることから、いつでも「最初の道しるべ」として心に光り続けているいちごへのメッセージとして読むこともできます。

 続くサビの「もっと違う空に会える」「はじまる夢と はじめるキセキ わたしを待っている」などの歌詞は、未来の自分、過去の自分、どちらに向けたものとしても解釈が可能です。「もっと違う空に会える」のところは、97話「秘密の手紙と見えない星」のエピソードを踏まえると、とても感慨深いものがありますね。ここで、歌詞が未来と過去の両方へ向けられているということは、『アイカツ』という作品を考える上で重要な要素になってきます。


2)第12話「WE WISH YOU A MERRY CHRISTMAS!」と『START DASH SENSATION』

 『START DASH SENSATION』の歌詞は、物語のラストを決めてから発注していて、2番Aメロの「キミ」は、大空あかりから見た氷上スミレのことなのだということは、公式に言及されています。

加藤 だから4年目OPの「STARTDASH SENSATION」の歌詞は、ラストが決まってから発注していて、2番の頭に出てくる「キミ」はあかりから見たスミレのことなんですよ。

木村 スミレの順位は何位でもよくて、どの順位だろうがカッコ良く見えるようにしなければいけないし、そうなるだろうと思っていました。

アニメージュ』2016年5月号 (徳間書店、63頁)

 このことを踏まえると以下の一節に、『アイカツ』らしい、キャラクターの成長を描くことへの並々ならぬこだわりを見ることができます。

キミが見つけた最初の風を
いつか見失いそうな時は
一緒に探せるような
わたしになっていたいな

 あかりの原点は12話「WE WISH YOU A MERRY CHRISTMAS!」にあるといえるでしょう。「友達を笑顔にしたいちごちゃん」に憧れて、あかりはアイドルを志すようになったのでした。だとすれば、彼女のひとまずのゴールは「友達を笑顔にすること」だということになります。そしてそのゴールは、177話「未来向きの今」のステージを通して、アピールに失敗し落ち込んでいたスミレを元気付けることによって達成される。ここではじめていちごと並び立ち、また新しいスタートを切ることができるというわけです。いちごと並び立つということは、大スター宮いちごまつりでの「おいで。時間かかってもいい。よじ登っておいで!わたし、てっぺんで待ってるから」への回答にもなっています。178話「最高のプレゼント」では、二人はまさに崖のてっぺんで合流したのでした。こういったストーリー構成の丁寧さが、『アイカツ』という物語に説得力を持たせているのでしょう。

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 ここでさらに注目すべき点は、176話でスミレが失敗したことと、177話までのあかりの物語とは、一切関係がないというところです。

——クイーンカップでスミレが8位に終わる展開が意外に思えました。

加藤 何位にするかというより、ステージで失敗する展開は、4年目が始まる時から決まっていました。監督から友達のためのステージにもなるようにしようと。

木村 ユウと絡める話を作れたらと思っていたんですけど、今はスミレのほうがあかりに近い存在だし、スミレを使うのが自然でしたからね。

アニメージュ』2016年5月号 (徳間書店、63頁)

 スミレが最後に挑戦して失敗し、カッコ良く終わるということは、最終回のストーリーが作られる以前から決まっていた。そして、あかりが最後に笑顔にする友達の候補には服部ユウが挙がっていた。けれど、「今はスミレの方があかりに近い存在だし、スミレを使うのが自然」だったからという理由で、笑顔にする友達はスミレに決まった。ここには「主人公の物語を綺麗に終わらせるために誰か他の人を失敗させよう」などといった、ストーリーのためにキャラクターを恣意的に動かすようなプロセスが一切ありません。あくまでもキャラクター1人1人の成長を中心にストーリーが考えられている。そしてそれは、CGモデルや歌唱担当を持たない服部ユウに対しても同じであるということがわかります。ユウは178話であかりの応援に駆けつけ、天羽まどかに「あかり先輩の大の仲良し」として紹介されたのでした。ユウの登場と紹介のされ方に涙してしまった方も多いのではないでしょうか(私は泣きました)。こうした妥協なきキャラクターへの愛が、『アイカツ』の登場人物一人一人に血を通わせているのです。 

 歌詞に戻りましょう。続くBメロの「あの日」もいろいろな解釈ができます。「教えてくれたんだ今日の笑顔」に繋げるとすれば、12話、77話、97話あたりがやはり妥当でしょうか。「あの日があって今が最高になる」の部分がスミレパートだということを考えると、スミレが177話のあかりのステージを思い返して歌っているようにも聞こえますし、「あの日」を117話「歌声はスミレ色」として解釈することもできるでしょう。誰が歌うか、いつ(どの話で)歌うかによって意味が変動することに、歌詞ならではの魅力があるのだとも思います。

 2番サビの「何度も生まれかわろう」とか、非常に感慨深いところですね。大空あかりは、髪型の変化が象徴しているように、何度も生まれかわってきたアイドルです。星宮いちごという存在を知り憧れを抱くようになったことも、スターライトに入学したことも、とにかく一つ一つの出来事が、彼女にとっては「今日が生まれかわるセンセイション」だったのでしょう。「今日が生まれかわる」というフレーズは『アイカツ』全体のテーマを反映しているようにも思います。そのあたりのことはまた最後に詳しく考察したいと思います。

 

3)『アイカツ!あかりGeneration』と『START DASH SENSATION』

 突然ですが、いちご世代*1とあかり世代ではテーマが異なります。少なくとも、主人公が違うことによって、物語のテイストに差異が生じています。

 101話以前と102話以降のあかりの置かれた環境を比べてみてください。101話までは、あかりの周りはあこがれの先輩達ばかりでした。まだ駆け出しのあかりは、いちご世代のアイドル達の後輩役であり、影響を受ける側の存在でした。ところが102話以降、あかりの立ち位置は一変します。いちご世代のアイドル達はあまり登場しなくなり、同学年の仲間や年下の後輩達が登場するようになります。そして、あかりは影響を与える側として描かれるようになります。

 また、あかり世代のキャラクターはいちご世代に比べて“あこがれ”という要素が希薄であるという特徴があります。例えば、スミレは藤堂ユリカのポスターを寮の部屋に貼っていますが、「いちご→美月」や「あかり→いちご」のような強烈な憧れを抱いていたというエピソードはありません。天羽まどかも、同じAngely Sugarを着るいちごと絡めたエピソードなんかがあってもおかしくはないのですが、そういった描写はあまりありません。このようなことから、あかりジェネレーションでは“あこがれ”という要素は意図的に抑えられ、“友達”や“仲間”の方に主題が置かれていると見ることができます。そしてこのテーマの移行は、あこがれを追いかけた先で生まれかわって「世界でひとり」の「あたらしいわたし」になったあかりの物語とリンクしているように思います。ここで、あかりジェネレーション最初のEDが『Good morning my dream』であったことを思い出してもいいでしょう。『Good morning my dream』では扉をあけた先で出会った仲間のことが歌われています。

 では、以上のことを踏まえた上で、『START DASH SENSATION』のCパートを見てみましょう。

(ひなき)未来向きの今をキミと走ろう
(スミレ)いつだって、ここから、あたらしい夢
(あかり)どこにだって行けるよ!
(START DASH!!)

 あかりジェネレーション最初のED曲である『Good morning my dream』には「どこまでもキミと走っていたい」というフレーズがありました。それが、最後のOP曲である『START DASH SENSATION』では、「未来向きの今をキミと走ろう」になっている。願望から意志へと変わっている。これが『アイカツ!あかりGeneration』の物語なのです。

 

4)『アイカツ!』と『START DASH SENSATION』

 『START DASH SENSATION』は『アイカツ』最後のOP曲であると同時に、最後の挿入歌でもあります。最後に、『アイカツ』全体の締めくくりの歌として『START DASH SENSATION』を考えてみましょう。

 最終回が放送された時、「アイカツは終わってしまったけれど、悲しい気分にはならなかった」というような意見をSNS等で多く見かけました。私も放送前はかなり落ち込んでいたのですが、放送が終わった後は、不思議と明るい気持ちになっていたのを覚えています。しかし、これは制作の主旨を考えれば、ある意味では当然のことといえます。『アイカツ』は東日本大震災を転機に、「皆で一緒に笑いながら身近な幸せを改めて感じ、明日を信じる力、未来への夢を持てる作品」を目指して作られたのでした。

ネガティブな出来事も起こりえるレトロなスポ根路線は消えてなくなり、代わりに、「皆で一緒に笑いながら身近な幸せを改めて感じ、明日を信じる力、未来への夢を持てる作品」が必要だろうということになったんです。「トップアイドルを目指すスポ根サクセスストーリー」の部分はそのままに、「温かくて前向きな気持ちになれる作品を作ろう」と、企画をブラッシュアップしていきました。この段階の企画書に書いてあることは、現在のところほぼすべてが、作品内で実現しています。あの震災が、『アイカツ!』という作品にとっての転機だったと思いますね。

アイカツ!オフィシャルコンプリートブック』(学研パブリッシング、2014年、130-131頁)

 ですから、最終回を観終わった後に「未来への夢を持てる」終わり方をしなければならない。そういうことを考えて178話の脚本や演出は練られたのだと思います。

 あかりは、自身の物語の締め括りとして、スタートの歌を歌います。あかりの物語の終わりには同時に始まりがあります。そして、前にも述べましたが、あかりは何度も生まれかわってきたアイドルです。

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 同じように『アイカツ』も、見た人の今日が生まれかわり、「明日を信じる力、未来への夢を持てる」ようにと意図して作られました。ですから、『アイカツ』最終回も、終わりであると同時に生まれかわった毎日の始まりでなければなりません。明日に繋がるものでなければなりません。彼女達が駆け抜ける毎日が懐かしくなってしまっても、わたし達は立ち止まってはいけない。生まれかわった「ここがスタートライン」なのだから。

 1項に、“『START DASH SENSATION』の歌詞が未来と過去の両方へ向けられているということは『アイカツ』という作品を考える上で重要だ”と書いたのはそういうことです。あかりの物語の終わりに「START」があるように、『アイカツ』の終わりは「スタートライン」でもある。そして、わたし達はここから、「未来向きの今」から、「どこにだって行ける」。もちろんこの感覚は、その場しのぎのものではありません。それは「ずっと続いていくセンセイション」なのです。

*1:あかりジェネレーションより前、101話までの世代をここではこう呼称することにします