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『やがて君になる』の意味を考える

 読み返していてふと思いついたことがあったので、ちょっと書いてみようと思います。『アイカツ!』以外のことについて書くつもりは全くなかったのですが、どうしてこうなるんでしょうね。

 

 まず前提として、「やがて君になる、の「なる」は「成る」ではなく、樹木に果実がなる、などの「生る(なる)」である。」という話は、「週刊話半分」さんの方で1年以上前に書かれているので、まずはそちらを読んでいただければと思います。

kanzo1984.hatenablog.com

 

 さて、『やがて君になる』を読み進めていくと、「そのまま」という言葉が重要な位置を占めているような印象を受けます。例えば燈子が過去を語るシーンには

成績は平凡 友達だって多くなくて

怖がりで いつも誰かの陰に隠れてた

だけどある日 そのままじゃ いられなくなったから*1

とありますし、「特別って気持ちがわからない」*2という侑に対し、燈子は「君はそのままでいいんだよ」*3と言ったのでした。

 

 ここで思い当たるわけです。そういえば受験古文では「やがて」は「そのまま」という意味だったなあと。現代語にも「そのまま」という意味は残っています。

やがて (出典:デジタル大辞泉)

そのまま。引き続いて。「山の仕事をして、―食べる弁当が」〈左千夫・野菊の墓

  すると、「やがて君になる」は「そのまま君に生る」と言い換えることができる。こうすると辻褄が合うんですね。

 

 ここで一度、燈子と侑の、どこまでも特別な関係性を整理しておきましょう。

  燈子は人前で「そのまま」でいることができません。我慢が必要になるとしても、「特別な私のままでいたい」*4のです。燈子に好意を寄せる人たちは「特別」な燈子のことが好きなのであり、また好きになるということは、その人を特別だと思うことでもあるので、燈子は誰とも付き合うことをしません。燈子に取って「好き」だと思われることは、暴力なのです。

「好き」って暴力的な言葉だ

「こういうあなたが好き」って

「こうじゃなくなったら好きじゃなくなる」ってことでしょ?

「好き」は束縛する言葉

だから「好き」を持たない君が

世界で一番優しく見えた*5

 燈子を特別な存在だと思わないただ一人の存在が侑でした。「弱い自分も完璧な自分も肯定されたくないくせに 誰かと一緒にいたい」*6燈子に取って、侑はこの上なく特別な存在です。だからこそ燈子は侑に「君はそのままでいいんだよ」と言った。誰かを特別だと思えないままでいい。それが燈子にとっての特別なのだから。

f:id:hitotosem:20170201235545j:plain*7

 一方、侑は「特別って気持ちがわからない」人物です。だから、誰かに好意を向けられても、応えることができない。誰かに特別だと思われても、その人を特別だと思うことはできないのです。そして、そのことを寂しいと感じているし、変わりたいと思っている。

 燈子に取って、「特別って気持ちがわからない」侑は、どんなに近づいても自分を特別視しない特別な人物です。ですから、侑の前でだけは、燈子は「そのまま」でいることができる。逆に侑は、人を特別だと思わない「そのまま」の姿でいることで、自分に対する燈子の特別に応えることができる。侑に取っての燈子は、特別がわからない「そのまま」の自分を特別だと思ってくれる、どこまでも特別な存在です。頭ではわかっているのですが、言葉にするとなんて複雑なんでしょう。

…七海先輩が

そのままでいいって言ってくれたから

好きって言われても好きって返せないわたしのことが好きだって

そう言ってくれるから

今はもう寂しくないかな*8

 

 つまり、二人は「そのまま」の状態(侑は人を特別に思えないまま、燈子は特別を演じないありのまま)で特別になれる唯一の相手同士であるということです。「やがて君になる」とは、「そのままの私の花が君の中に咲いていく」「君の中でしか存在し得ないありのままの私が君の中に芽吹いていく」ということではないでしょうか。だから「Bloom Into You(君の中へと咲いていく)」なのです。

 これはとても悲しい恋です。恋ですらないのかもしれません。なぜって、侑の中に恋心が芽生えてしまったら、この関係性は壊れてしまうからです。唯一好きになれるかもしれない、好きになりたい存在であるのにもかかわらず。

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 また、侑の願い通り燈子が特別な自分を演じるのをやめてしまったら、燈子の「そのまま」が特別でなくなってしまったら、その瞬間侑は燈子に取っての特別ではなくなってしまいます。

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 「そのまま」が特別になってしまうのですから、「そのまま」という言葉もある種暴力的です。「そのまま」の姿の私は、君の中で容赦なく花を咲かせていく。特別ではないことにおいて特別な二人は、特別になったら特別ではなくなってしまう。

 9話では脈で聞いていた心臓の音を、16話では直接聞いています。距離は確実に近づいている。簡単に壊れてしまうけれど、それ故に何よりも特別な二人の関係は、これからどう転がってもおかしくありません。侑の中に少しずつ恋心が芽生えはじめ、どこへ向かうかわからない今、これ以上私見を述べるのは野暮というものでしょう。

*1:1巻155頁

*2:1巻34頁

*3:1巻38頁

*4:1巻156頁

*5:2巻169頁

*6:2巻161頁

*7:1巻160-161頁

*8:3巻137頁

*9:2巻154-155頁

*10:3巻106頁