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3つの星と新しい輝きのメロディー (トライスター編の糸を手繰る)

 トライスター編は、誤解を恐れずに断言すれば、異質です。『アイカツ!』全体を通してこれほどシリアスなエピソードは他に例がありません。木村監督は「コメディーはコメディーでも、重たいコメディーにはしたくないと思って、すみずみまで気を使いました」*1と言っているのに、トライスター編ははっきり言って重たい。神崎美月が悪役として嫌われてしまう可能性だって考えられるし、トライスター結成後の忙しさの演出も、蘭の退寮や深夜まで続くレッスンなど、不自然に感じてしまうほどに過剰です。ですが、『アイカツ!』ほどの作品が、意味もなく物語をシリアスにし、「かわいそう」なキャラクターに強制的に感情移入させ、徒に涙を煽るようなことをするはずがありません。では、トライスター編は何故必要だったのか。トライスター編に纏わるユニット結成の意義とキャラクターの成長を考えてみたいと思います。

 

 まあ大方はソレイユの話です。まずは、第35話「涙の星」の公開面接での、星宮いちご、霧矢あおい、紫吹蘭それぞれの受け答えを見てみましょう。

 いちごは、面接開始直後頭が真っ白になってしまいましたが、あおいと蘭のことを思い浮かべ、乗り切ることができました。さらに面接中、あおいがスターライトに誘ってくれたことや、蘭が自分の目を覚ましてくれたことなどを語り、いい親友に恵まれたことだけは自信があると明言しています。

 あおいは、いちごと蘭と共に最後の3人に残れたことの喜びを語り、今の自分は「ヘビとマングースに睨まれて生き残ったハムスターみたいな気分」だと言います。そして、いちごと蘭のアイドルとしての才能についてどう見ているのかを美月から尋ねられ、2人の魅力を熱心に語りました。

 ところが蘭の場合は、他の2人の面接では最初に訊かれていた「最後の3人に残れた今の気持ち」についての質疑が描かれておらず、いきなり蘭が「紫吹蘭が加わったら…」と最後の質問に答えるところから面接のシーンがはじまります。ここでは、いちごやあおいのことに関しては一切触れられていません。

私にとっては、ステージが自分の居場所なんです。隣に誰が来ても、誰と組んでも、例えトライスターに加わっても、紫吹蘭は紫吹蘭です。

 まるで自分を無理矢理説得し、丸め込もうとしているようなセリフです。大嘘です。35話のホットケーキのシーンを見ても、第24話「エンジョイ オフタイム」を見ても、そんなことは火を見るより明らかです。実際、トライスターで蘭がミスをした際に、美月は「あなたらしからぬミスね」(第37話)と言った。「隣に誰が来ても、誰と組んでも、例えトライスターに加わっても、紫吹蘭は紫吹蘭」だなんてことは全くなかったわけです。

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  思うに、蘭はまだ自分の気持ちに素直になれていなかったのではないでしょうか。「確かにいちごやあおいといると楽しい。でも、アイカツは遊びじゃないんだ。」といったような具合で。そんな蘭が「あたしが探してた言葉」は「頑張ってね」じゃなくて「頑張ろう」だったのだと気づくためには、一度2人から引き離される必要があった。蘭が自分の気持ちに気づき、自分の意志で自分の居場所を決めなければ、ソレイユ結成の意味がないのです。

 

 ソレイユといえば『ダイヤモンドハッピー』です。この曲が第37話「太陽に向かって」において、劇中ではじめて歌われたことには大きな意味があります。

熱く確かな世界 動き始めた
そうだ私の世界
進め大好きな世界 とまらない鼓動
これが私の世界

動き始めた「熱く確かな世界」、「大好きな世界」を「私の世界」だとはっきり言えるようになったことが紫吹蘭の成長であり、ソレイユ結成の意義なのです。

 ちなみに、3人でライブに出ようとはじめて言い出したのは、実は紫吹蘭でした。

でも、ありかもな…。出てみるか?3人で、スペシャルオーディション。〔中略〕あたしも、なんか2人と一緒に闘ってみたくなった。(第8話「地下の太陽」)

 そして、第9話「Move on now!」ではじめて3人でステージに立ち、『Move on now!』を歌いました。この時のステージに上がる前のかけ声は、「明日へ向かってMove on now!」でした。

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 そして、37話で美月が蘭に送ったメールには、次のようにあります。

蘭の心にこれ以上雨がふらないように、蘭にはトライスターを外れてもらいます。

あなたには太陽のもとでかがやいていてほしいから!

私の夢であなたの夢を振り回してしまって、ごめんなさい。

いつも、夜空からあなたたちをみています

行く道は違っても、お互い同じ空で輝きましょう。

 夜が明け、太陽が昇るということは、明日が来るということです。37話で蘭は、文字通り太陽に向かって走りました。トライスターという夜空からソレイユという太陽に向かって、「明日へ向かってMove on」したのです。そして再び手を重ね、「これからは3人一緒に輝こう」と言った。

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  世界一硬い鉱物と考えられているダイヤモンドには、「永遠の絆」という宝石言葉があり、「壊れることのない変わらぬ気持ち」や「確かなるもの」を表します。*2 ソレイユとは、まさにこれからを照らす「永遠の絆」の太陽であり、自らの意志で明日へと向かう「新しい輝きのメロディー」なのです。

上を向けば太陽キラリ
まぶしくなれもっとね
君は光るダイヤモンド
新しい輝きのメロディー

 

 さて、このエピソードを通して大きく成長した人物がもう1人います。神崎美月です。美月がトライスターの3人目のメンバーに蘭を選んだ理由は、次のようなものでした。

私がアイドルユニットを組むからには、そのメンバーは、一人でも強く輝ける力を持つ人でなければと考えました。そして、オーディションの紫吹蘭の姿に、そのプロ意識が見えました。(第35話「涙の星)

 初期の神崎美月は、徹底した実力主義です。レベルの合うアイドルがおらず、1人でトップに立ち続けていた彼女が「一人で輝ける強さがあるかどうか」をユニットメンバー選出の基準にしたのは、当然の成り行きといえるでしょう。そして、蘭を「一人でも強く輝ける力を持つ人」だと判断し、トライスターのメンバーに選びました。ところが、それは間違いだったと気づく。単に強い光が集まればいいのではないのだと。ここから、神崎美月の成長物語がはじまります。

どんな惑星だって ひとりぼっちで

輝けるわけじゃない

 結局、美月はトライスター3人目のメンバーに、藤堂ユリカを選びました。あれだけ大規模なオーディションを行い、徹底的にふるいにかけて力のある人物を選び出したのにもかかわらず、ふるい落とされた側の人間を選んだのです。

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 ユリカは、単に力不足で脱落したのではありません。吸血鬼キャラを死守して、言い換えれば、自分だけの輝きを守って脱落したのです。そんなユリカを美月は選んだ。輝きの強さだけでなく、一つ一つの輝きそれ自体に目を向けるようになった証拠です。もしかえでとユリカの相性の良さも見抜いていたのだとしたら、これはものすごい成長です。そして、この成長はスターアニスへと繋がっていくのです。

夜空に輝く北極星は、3つの星が重なり合って一際目映く輝いている。私たちも一つになれば、きっとどこまでも大きく輝くことができる。この夏一番光り輝く、スターアニスという星に。(第41話「夏色ミラクル☆」)

 第41話「夏色ミラクル☆」で、みんなで同じ部屋に泊まりたいとリクエストしたのは、他でもない神崎美月でした。ずっと1人でトップを走り続けていた美月は、「ひとりだけれど独りではないスタート」へと進んでいくのです。*3

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 同じく41話で停電に見舞われた際、美月はその場で、おとめとかえでのマジックショーや、さくらの生け花、蘭のウォーキング、いちごとユリカの漫才(会話?)、あおいの「美月ちゃんクイズ」を発案し、電気を使わずに観客を楽しませます。その姿にいちごは強く感銘を受けたのでした。

美月さんはやっぱりすごい。私たち一人一人をちゃんと見てくれていて、ファンのみんなだって、こんな笑顔に。

 その後、美月は輝きを見つける側であるプロデュースに興味を持つようになり、スターライト学園を去った後、ドリームアカデミーのアドバイザーに就任します。

あなたたちと過ごした日々は輝いていた。でも、先輩としてもっと上手に後輩のあなたたちを導けたんじゃないかって思ってたわ。そう考えるうちに、プロデュースに興味を持ったの。(第63話「紅白アイカツ合戦!」)

 そして、最終的に彼女が選んだパートナーは、夏樹みくるでした。みくるって、言ってしまえばアイドル素人です。ど素人です。あの実力主義の神崎美月が、アイドルですらないみくるをパートナーに選んだ。彼女の輝きに気づくことができた。ここに美月の成長が集約されています。

いちごはたくさんいっぱいいろんなことを気づかせてくれた。そんな、いちごからもらったいっぱいで紡いだ翼を羽ばたかせて、私は新しいアイカツをスタートさせる。〔中略〕新しい私だけの、私自身で立ち上げた事務所から、ユニットで。(第78話「ミラクルはじまる!」)

 なんとも見事なのは、トライスターという3つの星が、スターアニスという3つのユニットの結び合せに繋がり、その「夏色ミラクル」が夏樹みくるへと繋がっているという点でしょう。涙の星にはじまった神崎美月の物語は、夏色のキセキに出会い、花の涙で一旦その幕を下ろしたのです。

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(2017.08.24追記)

 『アイカツスターズ!』70話「ジャングルカツドウ!」がすごかったのでちょっと書き足させてください。

 ダイハツがやばいとか、霧矢あおいちゃんが動いてるのやばいとか、徳井十九出てたのやばいとか、言いたいことは山ほどあるのですけれど、こういう感情の高ぶりは言語になるものでもないと思うのでとりあえず置いておいて、この記事に関係のあるところだけ少し書こうかなと。まずは紫吹蘭と七倉小春のやり取りについてですかね。

小春「蘭さんたちは、チームを組んで長いんですか?」

蘭 「ああ。もうずいぶん経つな。何をやるにも一緒だし、あの2人といると心強いよ」

小春「仲がいいんですね」

蘭 「ああ。一緒にいられなかった時期もあったけど、かえって絆が深まったかもしれない

小春「そうなんですね。実は私も留学していて、ついこの間戻ってきたんです。それで… ゆめちゃんたちと一緒にアイカツできるのが、今すごく嬉しくて」

蘭 「あたしにもわかるよ、その気持ち。一度離れたからこそ、私の居場所はいちごとあおいの隣なんだって強く思えた

小春「はい。離れた時間はムダじゃなかったって、そう思います」

蘭 「同感」 

 まさか蘭と小春、美月と夜空を合わせてくるとは…。正直今回のコラボ企画についてはあまり何も考えていなかったどころか、多少訝しく思ってさえいたので、不意を突かれた感じです。

 離れた時間の意味についての私見は上に散々書きましたし、ソレイユについては別でもう一つ書いたので、今更くだくだしく述べるのはやめておきますが、やっぱり心にしみ入るものがありますね。この流れで『ダイヤモンドハッピー』とかやられると、本当に受け止めきれなくなる…。劇中で歌われた言葉がどんどん新しい意味を獲得していって、放たれる度にその言葉に命が吹き込まれていくといいますか。とにかくここが『アイカツ』のすごいところで、いろんなところで歌詞考察が絶えず行われているのもそのためなのかなと思います。

 そして、美月とローラの方ですね。「人は自分で限界を決めてしまいがち。でも、近くに可能性を教えてくれる人がいるのは、とても幸せなことね」。これもやっぱり、トライスター、スターアニス、WMという3つのユニットを経た、今の神崎美月ならではの言葉だと思います。『アイカツ』は好きだけど『スターズ』は見るのやめちゃったという方もわりといらっしゃるような気がするのですけれど、まずは先週と今週の2話だけでも見ていただけたらと思いますね。

 とまあ『アイカツ』の話ばかりしていても仕方がないので、『スターズ』の話もしましょう。というかしないといけません。今回のコラボが素晴らしかったのは、決して後ろ向きなものではなかったというところ。正直フォトカツで『アイカツメロディ!』が出たときはちょっとそれどうなのと思ったのですけれど、やっぱりちゃんと「未来向き」なんですよね。

 さっき、“劇中で歌われた言葉がどんどん新しい意味を獲得していって、放たれる度にその言葉に命が吹き込まれていく”という言い方をしましたが、今回の『STARDOM!』に関してもそうで、この流れで、『ダイヤモンドハッピー』の後で、「憧れは次の憧れを生む わたしはここだよ」なんて歌うと、これもまた違う意味を帯びてくる。そして、このコラボ企画は決して過去を懐かしむためだけのものではないのだなということが伝わってくるわけです。しかも1年前は『アイカツ』と比較されてあれこれ批判的なことを言われていた『スターズ』のCGが、今では『アイカツ』と並んでも遜色ないどころか、過去に捕らわれない独自の表現を獲得しているものですから、感動もまた一入というもので。CGチームをそのまま引き継ぐということをしなかったあの時の勇敢な選択は、やはり間違っていなかったのでしょうね。

 といいつつ最後に懐古厨みたいなことを言いますが、絵コンテ・演出が木村隆一さん、そして作画監督が宮谷里沙さん(吉田和香子さんと共同)というところが、前作のファンには非常に嬉しいところ。しかも崖登りの作画は渡部里美さんです。

 演出に関してはOPがカットされていたので、これは最後にOP流れるやつか、と期待していたのですが、結局普通に『STARDOM!』を劇中歌として使い、EDに多少本編が食い込んではいたものの、幕引きは一応いつも通りでした。これも、『アイカツ』とのコラボが何か特権的な地位を与えられているわけではないということなのかなと思うのですが、単にやりたいことが多すぎて尺が足りなくなっただけかもしれませんね。まあどっちにしても、『Bon Bon Voyage!』は半分劇中歌、半分エンディングみたいな使い方をされていたわけですが、“普通なら出会わない人同士が無人島で出会い、アイカツの「WA」が広がる”という物語内容に『Bon Bon Voyage!』がぴったり合っていた。その上、「未来へ」ですからね。これもまたアイカツシリーズらしい楽曲の使い方だなあと思います。

 それで、脚本が森江美咲さん。コラボ回は、無難に柿原優子さんか、『アイカツ』、『スターズ』両方で脚本を書いている野村祐一さんか、ひょっとすると加藤陽一さんか、あとあるとしたら森江美咲さんかな、なんて考えていたのですが、結局先週のあかり世代の方を柿原優子さん、そして今週が森江美咲さんでしたね。

 森江美咲さんは、『アイカツ』の方で設定協力としてずっと参加されていた方で、わりと『アイカツ』よりの脚本を書かれる方という印象があります。というか私が初期の『スターズ』にあれこれ文句付けていたときも、森江さんの担当回は結構好きだったんですね。そうなんですよ。思い返せば『スターズ』がはじまったばかりの頃は、結構私文句ばっかり垂れていまして、特に山口宏さんの脚本が好きになれなかった(多分4話の裏方発言のせいです)。けれど、単純に『アイカツ』とは方向性が違うというだけの話ですから、老害的思考というのは恐ろしいものです。(山口さんをdisってるわけじゃないですよ。『エヴァ』16話とか大好きです)

 話が逸れましたが、まあ何が言いたかったかというと、アイカツシリーズへの愛が深く感じられて、もうそれが何より嬉しかったという話です。1000字に届かないぐらいしか書くつもりなかったのですけれど、思いの外長くなってしまいましたね。そろそろ畳むことにします。

 

*1:アイカツ!オフィシャルコンプリートブック』(学研パブリッシング、2014年、126頁)

*2:ダイヤモンドの宝石言葉

*3:第42話「船上のフィナーレ☆」のいちごとかえでの会話が、『ヒラリ/ヒトリ/キラリ』の歌詞と呼応している点も見事。スターアニスの活動はいちごの「ひとりだけれど 独りではない スタート! 進むためのレッスン」にもなっている。