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曲がり角の向こうへ (『アイカツスターズ!』と『赤毛のアン』)

※『アイカツスターズ!』はもちろんのこと、『赤毛のアン』のネタバレも多分に含みます。予めご了承ください。

 

 

 

 にちょっと書いたのですけれど、『アイカツスターズ!』48話には、白銀リリィが『赤毛のアン』を引用する場面があります。

私の愛する赤毛の少女はこう言いました。「今、曲がり角にきたの。曲がり角の先に、何があるのかはわからない。けど、きっと一番いいものに違いないわ」と。あなたは、誰のものでもない、本当の自分だけの道を歩みはじめたのです。

第48話「わたしだけの歌」

 23話にもあります。

リリィ「この世に好きなものがあるって素敵じゃない?」

ゆず 「ん?それって名言?」

リリィ「歌っている時にいつも頭に浮かぶ、アンの言葉です。久々に思い出しました。この機会を与えてくれたゆずに感謝します」

ゆず 「どういたしまして!だ〜ゾ!」

第23話「ツンドラの歌姫、降臨!」

 それで、まあ『スターズ』が直接の原因ではないのですが、いろいろあって『赤毛のアン』をちゃんと読もうと思い立ちまして、最近ずっと読んでたんですね。そしたらこれがもう本当に素晴らしい。あまりに有名過ぎる作品なので、私がどうこう言うことでもないと思うのですが、『アイカツ!』とか『ARIA』とか好きな人は絶対好きだと思うので、読んだことない人は是非読んでいただければと思います。私は松本侑子さんの訳(集英社文庫)で読んだのですけれど、松本さんの脚註は驚くほど細かいところまで調べられていて、シェイクスピアをはじめとしたいろんな英文学にも間接的に触れられるので、英文科の学生にもおすすめです。(赤毛のアンに隠された英米文学 - 松本侑子ホームページ)

 

 本題に入りましょう。上の48話の引用箇所ですが、リリィはS4戦で自身を抜いて1位に躍り出た桜庭ローラに対してこの言葉を送りました。この時何も知らなかった私は、普通にローラへの賛辞の意を表した言葉だと思っていました。ところが、アン・シャーリーは大学進学を辞退することを決意した際にこの発言をします。ですからこの「曲がり角」の科白は、もちろん非常に前向きで希望に満ちたものでもありますが、ある種の不幸や諦念からきた言葉でもあるわけです。

クィーン学院を出た時は、私の未来は、まっすぐな一本道のように目の前にのびていたの。人生の節目節目となるような出来事も、道に沿って一里塚のように見わたせたわ。でも、今、その道は、曲がり角に来たのよ。曲がったむこうに、何があるか分からないけど、きっとすばらしい世界があるって信じているわ。それにマリラ、曲がり角というのも、心が惹かれるわ。曲がった先に、道はどう続いていくのかしらって思うもの。緑に輝くきれいな森をぬけて、柔らかな木漏れ日がちらちらしているかもしれない。初めて見る新しい風景が広がっているかもしれない、見たこともないような美しいものに出逢うかもしれない、そして道は曲がりながらどこまでも続き、丘や谷が続いているかもしれない

 白銀リリィは、S4戦で敗北した際にこの科白を引用しましたが、S4戦のステージに立つ前のリリィには、自身のブランドのプレミアムドレスを身に纏い、ゆずと共にステージに立つ自分の姿が、それこそ「まっすぐな一本道のように」はっきりと見えていたことでしょう。

私はこれまで、必要以上の野心を持たないようにしてきました。既に自分のブランドを持つという願いも叶ったのですから。けど今は、新しい野心に突き動かされています。S4になって、自分だけのプレミアムドレスに身を包み、もっと、ゆずと一緒に歌いたい。

第48話「わたしだけの歌」

 けれど、その夢は破れ、S4になることも永遠に叶わなくなってしまった。思い描いていた未来は、ここで絶たれることになります。これはもちろん、最良の結果ではありません。S4になれるのなら、それが一番いいに決まっています。しかしながら、これは道の終わりでもありません。“曲がり角”の向こうには、未だ見ぬ景色が広がっている。だからこそ、彼女はこの言葉を選んだのでしょう。彼女の愛する赤毛の少女と同じように、彼女の“想像力”も決して失われることはない。そして、S4になれなかった白銀リリィは、四ツ星学園で誰よりも早く星のツバサを降ろしました。

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 日々アイカツに励む彼女たちと同じように、私たちの胸の内にも、何か「こうなりたい」とか、「これが私にとっての幸せだ」みたいな考えがあります。そしてそれは、恐らく夢や目標の大きい人ほど明確で、先まで真っ直ぐに見渡せる。そのこと自体はもちろんとてもいいことで、その夢が叶えば、きっと何ものにも代え難い歓びになります。けれど、それ以上のものがないなんて保証は、実はどこにもない。最上のものを知るには、世界はあまりに大きすぎるし、私たちは小さすぎます。

 『スターズ』は2年目で舞台を大きく世界に広げました。元S4の面々は、続々と世界に向かって羽ばたいて行きました。けれど、アンがマシューの死を目の当たりにしたように、恐らく世界は“きれいな物”ばかりではない。昨日まではっきりと見えていた道が、急に見えなくなることもある。でも、それを“全部抱きしめ”た先には、また新しい道が続いている。見たことのない景色が広がっている。そしてもちろん、“願いは負けたりしない”。だからこそ、その先にあるものが「一番いいものに違いない」と信じて、その不確定性の中に夢を見出していく。“根拠のない自身を カードに詰め込んで”、ひとひらの羽ばたきが“やがて風になる”と信じて。『スターズ』の生き方って、きっとそういうものだと思うのです。

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 さて、アン・シャーリーは大学進学を辞退して、アヴォンリーに残ることを選んだわけですが、エイヴリー奨学金の受賞者が決まる試験の結果発表前にはこんなことを言っていました。

とにかく、最善は尽くしたし、『健闘する歓び』* も分かりかけてきたわ。努力して勝つことがいちばんだけど、二番めにいいのは、努力した上で敗れることなんだわ。