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『血界戦線 & BEYOND』EDの映像演出について

 


DAOKO × 岡村靖幸『ステップアップLOVE』MUSIC VIDEO

 


 

 松本理恵さんの映像演出には、ジャンプカット*1・同ポジ*2の多用、フレームのある構図、ロングショットの絶妙な間の取り方等々、いくつかの特徴がありますが、映像と音の親和性が異常なまでに高いというのも特徴の一つではないかと思います。

 この「映像と音の親和性の高さ」について、一つ興味深い言及があります。

 といって幾分かうろ覚えではあるのですが、確か『京騒戯画』配信第一弾のオーディオコメンタリーだったと思います(DVD借りてきて確認します。すいません)釘宮理恵さんがこんなことを言っていました。曰く、松本監督とはじめて会った時「釘宮さんは赤だと思うんです」と言われて、それでなんだか100%信用してしまった、と。言われてみると、松本理恵さんは、音を「色」として捉えているように思えてきます。

 これはもちろん「松本理恵はシドバレットのような共感覚を持った天才なんだ!」とかそういう話ではなくて、つまり、視覚的なものと聴覚的なものの総体として映像を捉え、どう演出していくか。表情、動き、背景、劇伴、効果音、声、それぞれの色をどう混ぜ合わせて、一つの連続した映像にまとめ上げていくか。こういうことを徹底的に考え抜いて、コンテを描いたり、選曲をしたり、演技指示を出したりしているように思うのです。

 では、松本理恵さんはBGM、SE、セリフの出し方・ニュアンスまで全部絵コンテ上で計算しているのか。というとさすがにそれはないらしく、ダビング*3の段階で直すことも多いそう。これについては、『血界戦線』で音楽演出を担当されていた佐藤恭野さん(佐藤順一監督の奥さまです)のインタビューで少し触れられています。

佐藤 松本監督の場合は、このシーンのこのカットにはこの曲のこのフレーズがきて欲しい、みたいなイメージがきちんとある場所が多いので、それに沿って選曲・編集するのだけど、ダビングでセリフと効果音と曲が合わさった時に、彼女の中に新たに効果音の音質のイメージや曲の始まりやフレーズの位置、セリフの聞かせ方などのアイデアがどんどん湧きあがってくるんです。そのアイデアや直しが、悔しいかな「なるほど!」と思えちゃう。だからみんなそれに応えるべく、効果音を作り直したり、曲の編集を細かくやり直したりで、ダビングに10数時間かかったりしていましたね。彼女とは『血界戦線』の前に『京騒戯画』のTVシリーズ(2013年)で初めてお仕事をしたんですけど、そこで音楽編集の腕を買ってくださり、『血界戦線」でも指名していただいたので、期待に添えるよう頑張りました。

この人に話を聞きたい 第187回 佐藤恭野 (『アニメージュ』2016年7月号収録)

 

 そして、『血界戦線&BEYOND』のED映像も、音楽と映像の親和性が非常に高い。恐らく6コマ撮り、3コマ撮り*4をメインに、時に変則的なコマ数の撮影も混ぜながら、素材を重ねているのだと思いますが、まるで曲のテンポにぴったり合わせたかのような気持ちよさ。と同時に、むしろ少しずつずれていくことが心地良くもある。文章にすると支離滅裂ですが、この感覚は誰もが感じているのではないでしょうか。いやわかりませんが。

 

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 そして色使いが素晴らしい。背景のカラフルなノイズも、伴奏のピコピコ音と相互に影響しあって、互いを引き立て合っているようです。

 

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 「結論・ミクロン・1秒」とリリックが細かくなるところで6コマ→3コマに変える、右から入ってくるギターの音とほぼ同時*5にK・Kが上手からフレームイン*6、花びらの動くタイミングをバスとスネアの音に合わせるなど、前面に出てくる音との同期も図られています。

 

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 さらに見事なのが、Bメロの展開の仕方。「岡村靖幸の声と堕落王めっちゃ合ってるよね」とかそういうのもありますが、ここでシネスコサイズ*7アスペクト比を変えているのがすごいところ。フィルムノイズの哀愁も相俟って、曲の聴こえ方にかなり影響を与えているように思います。密着マルチ*8の速度も絶妙ですし、ここで一度テンションを落とすことで、見事にまとまったEDになっている。OP・EDの演出は、ある意味「編曲」だと言えるのかもしれません。映像によって音楽の聞こえ方も変わるし、音楽によって映像の見え方も変わる。そうして〈視覚の聴覚的刺激〉と〈聴覚の視覚的刺激〉が、絶妙に作用し合った映像に仕上がっているように思います。

 

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 最後のサビ折り返し後のカットも見事で、パトランプとビルの灯り、街灯の明滅、ビルの揺れ、これらの頻度の差が独特な視覚的リズムを生み出している。前カットのピコピコ音と対応した背景のノイズのニュアンスも、パトランプとカラフルなビルのライトによってしっかりと維持され、シークエンスを保ちながらも映像のテンションが少し下がり、終わりへと向かっていく。

 

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 そして最後、キメとぴったり合わせたカット割り、タイトルロゴの出し方、逆光、手ブレ、いやもう単純にかっこいい。

 


 

 そんなわけで、感動に補助線を引くような形でいろいろと書いてはみましたが、結局松本理恵さんの作る映像は、ギチギチに計算されて詰め込まれていてリズムが良く、端的にめちゃくちゃかっこよくて、セリフとセリフ、音と音の“間”に深い感動を覚えたりもする、と。そういうことだと思います。本当に、すっかり虜になってしまった…。

 なので、本稿は準備稿のようなものです。いつになるかはわかりませんが、いずれもっと資料を集めて、きちんとまとまったものを書きたいと思っています。

(とりあえず東映でも東宝でもアニメスタイルでも、どこでもいいので絵コンテ集(本編)を出して欲しい)

 

 


※映像演出の知識に乏しいので、用語の使い方に間違いがあるかもしれません。

*1:映画の編集技法の一種。画面の連続性を意図的に無視して、カットを繋げること。例えば、時間経過や場所移動を示す映像をあえて省略することでスピード感を出すなど、様々な演出効果を出すことができる。ジャン=リュック=ゴダールの「勝手にしやがれ」(1959)で始めて用いられたといわれている(作画@wiki

*2:以前使われたカットと同じ構図を使うこと。(作画@wiki

*3:音声データと、BGM(劇伴)と、効果音を映像と合わせる作業のこと(『SHIROBAKO』公式サイト

*4:6フレームで1回動く絵、3フレームで1回動く絵、という意味です。ちょっと使い方違うかもしれません…

*5:若干K・Kの方が遅い

*6:映画・テレビの演出用語で、登場していなかったものが画面の中へ入ること。(デジタル大辞泉

*7:コトバンク

*8:セルや背景を重ねて、違った速度で同時に動かすこと⇔SL(作画@wiki