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アニメの感想など

The Queen Is Alive ——ロリゴシックを読む

アイカツオンリーイベント「芸能人はカードが命!」第14回で頒布した本に収録した原稿です。文章が下手なうえ意味不明な方向に話が飛ぶので、読み返すと顔から火が出そうになるのですが、やたら頑張って書いた記憶があるので公開します(買ってくださった方すいません&本当にありがとうございました)。前後の稿と微妙に繋がってたりもしますが、単体でも読めると思います。

 


(本文中は全て敬称略)

 本稿は、ロリゴシックと夢小路魔夜、及び藤堂ユリカ、氷上スミレについて書いたものです。非常に先行研究の多い分野で、特に氷上スミレという人に関しては実に多種多様な考察がなされていますから、今更私が何か言うのもどこか二番煎じ感があるのですけれど、やっぱり『アイカツ』考察みたいなことをしていると避けて通れない分野なんですね。不思議な求心力があります。

 

前提:ゴシック&ロリータとは何か

 さて、ロリゴシックはゴシック&ロリータ、つまりゴスロリのブランドですから、ロリゴシックの話をするにあたっては、まずゴスロリの定義を明らかにしなければなりません。ゴスロリについては、霧矢あおい大先生が、作中で簡潔な説明をしてくださっています。

正しくはゴシック&ロリータ。少女の夢や、底に潜む心の闇を自己表現するファッションと言われている。アイカツカードのブランド、“ロリゴシック”もその一つ。

第19話「月夜のあの娘は秘密の香り」

 本来ならゴシックやロリータの歴史や定義について細かく説明するべきところだとは思うのですけれど、恥ずかしながら私自身がほとんど何も知らないので、ここでは上記の説明を“『アイカツ』におけるゴシック&ロリータの捉え方”としてそのまま受け取ることにします。ちょっとずるいような気もするのですけれど、付け焼き刃の知識で適当なことを書くよりはいいかなと。それに何より、「少女の夢や、底に潜む心の闇を自己表現するファッション」であるという点が、私には非常に重要なことのように思えます。ともかく、そういうことも含めて、夢小路魔夜の考え方と、ロリゴシックの世界の住人である藤堂ユリカ、氷上スミレ両名のアイドルを中心に、ロリゴシックを着るとはどういうことかを考えていきましょう。

 

There Is a Light That Never Goes Out

 ロリゴシックと言われると、ユリカがプレミアムドレスを手に入れる20話「ヴァンパイア・スキャンダル」のエピソードが真っ先に思い浮かぶ、という方も多いのではないでしょうか。このエピソードには、デザイナー夢小路魔夜の考え方やロリゴシックというブランドの特色が、実に色濃く表れています。まずはこのエピソードから詳しく見ていきましょう。魔夜は「僕の自信作」と自称するゴスマジックコーデをユリカに披露し、こう語りました。

今の君に、このドレスが着こなせるの?僕のドレスはね、強い女の子にしか似合わないんだ。毅然と凛々しく、顎はツンと上向きに。こんな写真撮られたぐらいでへにゃへにゃしちゃう女の子には着て欲しくない。

 対してユリカは、魔夜が持っていた雑誌を奪い、暖炉に投げ捨てる。その後の2人のやり取りも、そのまま引用します。

ユリカ「私は…私はプレミアムドレスが着たいの!あのドレスを着れば、もう一度ファンの前に立つ勇気が持てると思うから!だからお願い、ゴスマジックコーデを私にください!」

魔夜 「デザイナーは魂を込めて服を作る。だから、その服にふさわしい人間に着てもらいたいと願う。今の君が、このドレスにふさわしいと胸を張って言える?」

ユリカ「言えません…。でも、私、ロリゴシックのドレスが大好きなの!今はまだプレミアムレアドレスにふさわしくないかもしれない。でも、きっとそうなる!そのためならどんな努力もする!私は、誰よりもロリゴシックのドレスにふさわしいアイドルになります!」

 (…)

魔夜 「高い目標を目指して登っていけば、いつかそこへたどり着けるかもしれない。僕はそうやって努力する女の子が好きなんだ。君には、きっとこのドレスが似合う」

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 ここからわかる通り、夢小路魔夜の求める「強さ」は、普通の意味での強さではありません。それは、現時点での弱さ、至らなさを認めた上で、それでも高い目標を目指して努力する、そういう「強さ」です。そして、ロリゴシックのドレスは、「そうやって努力する女の子」にこそ似合う。そういう女の子の背中を押してくれる。前に進む勇気をくれる。89話に「気弱な主人公が仮面で変身して活躍する」という内容の『変身カレンダー』という本が登場しますが、ロリゴシックのドレスは、まさにその仮面のようなものです。この在り方は、作品全体を通して、全くブレていません。

 そういうわけで、弱さを受け入れた上で、それでも強くあろうとしたユリカの成長は、89話「あこがれは永遠に」で示されることになります。ユリカに憧れる少女、持田ちまきに「どうしたら、私もユリカ様みたいに強くなれますか?」と尋ねられ、ユリカは戸惑ってしまう。そして、「強さに憧れてた頃の私」を思い出す。悩んだ末、「昔から強かったわけじゃない」彼女は、「普段の私」をちまきに見せることで彼女の質問に答えました。

 この時の『永遠の灯』のステージでユリカが着用したのが、ナイトメアカプリコーンコーデ。青いバラをあしらった、山羊座のプレミアム星座ドレスです。この青いバラというモチーフについては、『アイカツスターズ』の方でも白銀リリィに関連するモチーフとして使われているので、ご存じの方も多いかもしれません。「不可能」と「夢かなう」という、対照的ともいえる2つの花言葉を持ち合わせた花です。

 この花言葉について簡単に説明しておくと、バラには本来青色の色素がないんですね。だから、青いバラblue rose)は、「不可能」、「存在しないもの」を表すものだった。ところが、その「存在しないもの」を存在させようとする人たちが表れてきます。そして、気の遠くなるような実験を重ね、たゆまぬ努力を続けた末、サントリーの研究者チームがついに青いバラの開発を成功させる。その際に「夢かなう」という花言葉が付けられたというわけです。

世界初の青いバラは「SUNTORY blue rose Applause」と名づけられ、販売が開始されました。アプローズとは「喝采」という意味で、花言葉は「夢 かなう」です。夢をかなえるために努力してきた多くの人へ喝采を贈りたいという想いが込められています。

開発ストーリー|世界初!「青いバラ」への挑戦

 繰り返しになりますが、青いバラは本来存在しないものです。開発された青いバラは、あくまで遺伝子組換えによって作られた、人工的なものに過ぎません。けれど、それは確かにそこに存在し、実際にたくさんの人を喜ばせている。

80代の女性から「長生きした甲斐がありました」というお手紙と共に、青いバラをモチーフにした手作りの刺繍を贈っていただいたことも。見ず知らずの私たちのために一針一針縫ってくださった姿を思うだけで涙が出ます。

開発ストーリー|世界初!「青いバラ」への挑戦

 藤堂ユリカも同じです。彼女も吸血鬼という「存在しないもの」を演じることで夢を叶えてみせました。弱さを克服して見せました。そんな彼女の姿は、夢に向かって努力する多くの人たちに、今も勇気を与え続けています。

 ところで、2ndシーズン後半には、完結編と言えるようなエピソードがいくつかありますね。見方にもよりますが、例えば、霧矢あおいなら71話「キラめきはアクエリアス」、音城セイラだと95話「夢の咲く場所」などなど、世代交代前に特定のキャラクターの物語を一旦締めくくるような、そういうエピソード。89話もその一つだといえると思います。そして、これらはもちろん「終わり」を意味するものではありません。最初に『START DASH SENSATION』について書いたことと同じ主旨の話になりますが、『アイカツ』は物語が収束してしまうことを、注意深く避けてきました。恋愛を御法度にしているのも、そういう理由からでした。

(木村隆一) ちょうど僕が作業を始める頃は、『プリティーリズム』という女児向けのアイドルアニメが大人気でした。だから、同作といかに差別化するかをまず考えました。大きなところで違いを出すのは難しいなと思ったので「細々としたことを積み重ねて、違う雰囲気のものにできたらいい」と思っていたんです。『プリティーリズム』がわりと正統派の少女マンガ路線だったのに対し、本作の場合は「スポ根もの」というテーマがあったので、恋愛要素はあまり前に出さないようにしようと考えました。とはいえ、当時少女マンガや少女雑誌をいろいろ読むと、どれも恋愛の話ばかり。それでも、恋愛の絡まないところでひとつ世界観を作れないかなと考えていたので、これが特徴といえば特徴ですかね。

——「恋愛には触れない」というコンセプトからスタートしたんですね。

 恋愛をあまり前に出さないようにしようと思った理由がもうひとつあります。恋愛があると、どうしても思いが成就したところで、お話が終わってしまうんです。プロデューサーから「作品を長く続けたい」と言われたこともあって、あまり物語が収束してしまう世界観を作らないようにしようと思いました。

アイカツ!オフィシャルコンプリートブック』(学研パブリッシング、2014年、130-131頁)

 ですから、当然89話も「終わり」を意味するものではない。それはそうです。そうなんですが、89話の場合は、またちょっと違った意味合いがある。というのも、ロリゴシックには元から「終わり」なんてないんですね。夢小路魔夜の言ったことをもう一度引用します。

高い目標を目指して登っていけば、いつかそこへたどり着けるかもしれない。僕はそうやって努力する女の子が好きなんだ。君には、きっとこのドレスが似合う。 

 そういうことです。つまり、ロリゴシックが似合うのは「いつかそこへたどり着けるかもしれない」と信じて努力する女の子ですから、強くなったことに満足してしまってはいけない。だからこそ、魔夜が「成長した藤堂ユリカに着てもらいたい」と言うナイトメアカプリコーンコーデには、「不可能」を意味する青いバラがあしらわれているわけです。

 そして、藤堂ユリカはロリゴシックが似合う女の子ですから、不可能性をその身に纏って、どこまでも高みを目指していく。「いつかそこへたどり着けるかもしれない」と信じ、「脆く儚い心」を灯して。青いバラのドレスを纏って堂々とランウェイを歩く彼女の姿には、そういうロリゴシックの「強さ」が確かに感じられます。その姿から、持田ちまきをはじめとした「弱さ」を抱えた少女たちは、たくさんの勇気を受け取ったことでしょう。

 ところで、これは余談ですが、青いバラを開発したチームも、不可能への挑戦をやめたわけではありません。そして2012年5月9日、新潟県サントリーは、青いユリの共同開発に成功したと発表しました。*1 不可能を可能に変えた果ての、さらなる不可能への挑戦。その挑戦がユリの花だったのは、単なる偶然でしょうか。 

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「偉大なるぺてん師」の魔法

(一応断っておきますが、ここからは『オズの魔法使い』、『リトルウィッチアカデミア』、『亜人ちゃんは語りたい』の3作品のネタバレを含みます。『オズの魔法使い』以外は内容に深く触れることはしませんが、念のため。)

 氷上スミレについて書くならまずは108話「想いはリンゴにこめて」の話から、と思っていたのですが、ちょっと先にグロウスドロシーコーデの話をしようと思います。というのも、グロウスドロシーコーデについて、夢小路魔夜が「これぞ、ロリゴシックの王道と言える自信作だ」(144話)と言っているんですね。そうなると、ちょっとこれは無視できない。実際、このドレスには「これぞロリゴシック」といえるようなものが仮託されているように思います。

 一応このドレスについて、簡単な確認をしておきましょう。グロウスドロシーコーデは、『オズの魔法使い』のドロシーをイメージしたドリームドレスです。アニメ本編では、144話「ドッキリアイドル大作戦!」の『エメラルドの魔法』のステージでスミレが着用していました。『エメラルドの魔法』の歌詞も、明らかに『オズの魔法使い』を意識したものになっています。

 『アイカツ』と『オズの魔法使い』については、切っても切り離せない関係があるようで、やはり素晴らしい考察がいろいろなところでなされていますから、ここではロリゴシックとの関係に絞って話を進めていこうと思います。

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 さて、先ほどロリゴシックの「強さ」は、現時点での弱さ、至らなさを認めた上で、それでも高い目標を目指して努力する、そういう「強さ」だ、という話をしました。その意味で、ロリゴシックの「強さ」は「弱さ」と不可分です。そして、この「強さ」の在り方は、『オズの魔法使い』に登場する脳みそのないかかし、ブリキのきこり、臆病なライオンと重なるところがあります。

 『オズの魔法使い』では、かかしは脳みそ、きこりは心、ライオンは勇気、各々が足りないものをオズ大王にもらおうと、ドロシーと共にエメラルドの都を目指して旅をします。最終的に、彼らは皆、その足りないものを手に入れることになります。

 では、偉大なる魔法使いオズ大王が、脳みそや心や勇気を、魔法を使って彼らに授けてくれたのか。違いますね。彼らは皆それぞれ望むものを持っていなかったからこそ、それを手に入れることができたのでした。

 わらの詰まったかかしは脳みそがありませんから、誰よりも一生懸命ものを考えます。かかしの考える策がなければ、ドロシーたちは命を落としていたかもしれません。崖や川を越えることができたのも彼のおかげです。一方、ブリキのきこりは心がありませんから、誰よりも人に優しくしようと常日頃から心がけます。野ネズミの女王を助けたのも彼でしたし、泣けば口が錆びついてしまうというのに、彼は劇中何度も涙を流しました。そして臆病なライオンは、これはひどく逆説的な言い方になりますが、臆病だからこそ勇敢になれたのでした。

「でもわしの勇気はどうなる?」心配そうにライオンが聞いた。

「勇気に満ちているじゃないか、あんたは」オズがこたえた。「あんたに必要なのは、あとは自信だけだ。危険を目の前にしてこわがらない生きものなど、どこにもいやしない。本物の勇気というのは、こわいと思いながらも危険に立ちむかうことだよ。そしてそういう本物の勇気を、あんたはもうたっぷり持っている」

L・F・ボーム『オズの魔法使い』(河野万里子訳、新潮社、2012年、179頁)

 彼らは皆、自分の足りないものを知りながらも、それを求めて旅をした。その過程で、それぞれの望むものを自分の力で手に入れたわけですね。そして、「エメラルドの都に行ってオズ大王に頼めば、きっと願いを叶えてくれるわ」と、彼らを旅に誘ったのは、他でもないドロシーです。

 結局、「偉大なる魔法使い」だと思っていたオズ大王は、「偉大なるぺてん師」でした。彼は魔法なんて使えない。けれど、かかしもきこりもライオンも、旅の途中でもう「ほしいもの」を手に入れていましたから、何の問題もありません。あとは、彼らが自分を信じられるよう、ペテンにかけるだけでいい。でも、それができるのはオズ大王だけですから、やはり彼は「偉大なるぺてん師」なんですね。そしてこれこそが、「エメラルドの魔法」です。

 ロリゴシックも同じです。ユリカは「あのドレスを着れば、もう一度ファンの前に立つ勇気が持てると思う」と言いました。ロリゴシックのドレスは、「弱さ」を抱えたまま、それでも強くあろうとする女の子の背中を押してくれます。かかしやきこりやライオンをドロシーが旅に誘ったのと同じように、です。そして、ロリゴシックを着る少女たちは、自分の持っていないものを手に入れるために、一旦はロリゴシックのドレスという「魔法」に頼る。けれど、そうして「ほしいもの」を手に入れようと立ち向かううちに、本当にそれを手にすることになるわけです。

Somewhere over the rainbow way up high

There's a land that I heard of once in a lullaby

Somewhere over the rainbow skies are blue

And the dreams that you dare to dream really do come true

Judy Garland - 『Over The Rainbow』

さぁ 遠く虹の彼方へ

願いごとがあるなら

ほしいものがあるなら

たちむかわなくちゃ

『エメラルドの魔法』

 ところで、ちょっと個人的な話になりますが、最近トリガー代表取締役大塚雅彦が『リトルウィッチアカデミア』最終回に関して、「人間の成長とは人格が変わったり丸くなることではなくて、己を知ることなんだろう」*2と言っていて、なるほどなあと思ったんですね。アツコ・カガリは憧れに向かって突っ走るタイプの主人公ですが、なかなかシャリオみたいに上手く魔法が使えない。けれど、憧れに向かって努力する中で、だんだんと自分の強みや弱みを自覚するようになっていく。そしてそれを自覚した上で、尚も憧れに正直であり続ける。

 だから、前稿で「何かになりたい」と思う気持ちについていろいろと書きましたが、それはもちろん自分を捨てて何かになってしまえばいいという意味ではなくて、己をちゃんと知った上で、その己自身となりたいものとの間に表出するもの、この二点間に生ずる何ものかが大事なんだと思うんですね。そして、北大路さくらと大空あかりの「オリジナルスター」や、ロリゴシックの「強さ」は、きっとその表現の一面なのだろうと思うのです。もちろんこれは『アイカツ』に限った話ではなくて、アツコ・カガリも、緑谷出久も、苗木野そらも、藍華・S・グランチェスタも。あるいはこのセリフを引いてもいいかもしれない。「いつだって、何かを変えていく力は、“だとしても”という不撓不屈の思いなのかもしれない」*3

 

 話が大分逸れてきましたが、最後にもう一段回逸らしてみようと思います。藤堂ユリカと逆、というわけではないですが、『亜人ちゃんは語りたい』には、バンパイアの性質を持ちながらも普通の高校に通っている、小鳥遊ひかりというキャラクターがいます。彼女について、主人公の高橋鉄男先生がこういう事を言う。

確かにあいつは『バンパイアの性質』に即した行動はあまりしない

だがそれでバンパイアらしくない・・・・・と言われると

…それは違う

ひかりは人から血を吸いたい気持ちはあるがパックで我慢している

またバンパイアの嗅覚を上回ってなお匂いの強い食べ物が好き

そういった『人間性』があいつのバンパイアらしさ・・・・・・・・であり 人間としての個性・・・・・・・・

らしさ・・・は生まれ持った『性質』ではない

『性質』をふまえてどう生きるかだ

ペトス『亜人ちゃんは語りたい2』(講談社、2015年、28-29頁)

 これが、私の中での今のところの「らしさ」の定義です。そういうわけで、今度こそ本当に氷上スミレの話をします。

 

選びとった運命:氷上スミレの進む道

 先ほど述べたように、まずは108話「想いはリンゴにこめて」の話からいきたいと思います。とはいえ、これに関しても既にたくさんの素晴らしい考察がなされていますから、私からは一点だけ。それも表面的なことだけ。すなわち、何故魔夜はスミレにスノープリンセスコーデを託したのか、についてだけお話しようと思います。

 

 20話で魔夜はユリカに「今の君が、このドレスにふさわしいと胸を張って言える?」と尋ねました。今思い返すと、これはユリカを試すための質問だったといえます。模範解答は「今はまだふさわしくないけど、必ずふさわしいと言えるアイドルになる」といったところでしょう。ユリカは見事、魔夜の求める「強さ」が自分にあることを示してみせました。

 では、108話の場合はどうか。魔夜(とユリカ)がスミレにした質問はこうです。

魔夜 「実はそのリンゴ、付けるかどうか最後まで迷ったんだ。だって物語の中では、白雪姫を危機に陥れる毒リンゴ。白雪姫のドレスに付けるのはどうかなあって…」

ユリカ「氷上はどう思う?」

魔夜 「正直に言っていいんだよ」

 この時ユリカは何かに気づいたような反応をしますが、それについてもやはり素晴らしい先行研究がありますから、そちらに譲ることにします。*4ともかくここで私が言いたいのは、魔夜が白雪姫のドレスにリンゴを付けないわけがない、ということ。もちろん、「ロリゴシックのダークなイメージと毒リンゴはよく合うから」というイメージの話ではありません。

 “『アイカツ』におけるゴシック&ロリータは、「少女の夢や、底に潜む心の闇を自己表現するファッション」である”ということは、最初に確認しました。ですから、ロリゴシックのドレスも「夢」だけを表現したものではない。魔夜の作るドレスには「夢」と「底に潜む心の闇」、もっと平たく言えば、プラス要素とマイナス要素が、必ず含まれています。「弱さ」に立ち向かう「強さ」はもちろんのこと、強くなったユリカのドレスにも、「不可能性」と「夢 かなう」があしらわれているぐらいですから。そして、持っていないものを手に入れるための旅に誘うドロシーは、「これぞロリゴシックの王道」といえるようなモチーフになり得るわけです。

 ですから、『白雪姫』の物語から毒リンゴというマイナス要素を捨象し、純化された綺麗な夢物語に仕立て直してしまうことは、ロリゴシックの在り方に真っ向から反する。夢小路魔夜がそんなことをするはずがありません。「付けるかどうか最後まで迷った」なんて、毒リンゴよりも真っ赤な嘘です。

 そして、恐らく無意識的にではありますが、氷上スミレはこのことを理解していた。あかりやひなきと違って、彼女は108話の冒頭から一度もリンゴの存在に疑問を抱いていません。そして魔夜の質問に「変じゃありません!」と答えた。ここで少し話を戻しますが、108話で魔夜の屋敷に乗り込む前、ユリカはこう言っていました。

あんまり甘えてると血を吸うわよ!ロリゴシックのドレスは魔夜さんの魂!そのプレミアムドレスを着ていいのは、このブランドを愛し、理解し、その世界の住人になれる者だけ。私はそう思ってる。魔夜さんに会えるかどうかはあなた次第よ。頑張りなさい!

 ですから、魔夜の質問は、ロリゴシックを愛し、理解しているかどうかを試す質問だったわけです。そしてスミレは、見事にその「愛」と「理解」があることを証明してみせたのですね。

 しかしながら、これは「愛」や「理解」を試す質問ではあっても、「強さ」を試す質問ではありません。だから、この時スミレにドレスを託したことは、魔夜にとってある種の賭けであったように私には思えます。実際、スミレはモデルか歌かの二択を迫られた際、流されるような形で一度はモデルの道を選びましたから、108話時点のスミレが魔夜の求める「強さ」を持っていたとは、ちょっと考えにくい。

プロの人たちが、私にそれが向いてるって言ってくれるなら、それが私の得意なことなのかもしれない。あかりちゃんがお天気キャスターのお仕事に進んだみたいに、私も、モデルに進んでみようと思う。

第117話「歌声はスミレ色」 

けれど、最終的にスミレは自分の気持ちを信じて、自分の意志で歌の道に進みます。魔夜とユリカの見立ては正しかったわけですね。

スミレ「占いでね、行く手には深い霧が立ち込め、どの道を行けばいいのかわからないって出たの」

あかり「それ、いいこと占い的には?」

スミレ「先のことなんて誰にもわからない。だったら、自分のやりたいことをやりなさいってことだと思う」

あかり「そうだね!」

スミレ「あかりちゃん言ったでしょ?お天気キャスターのオーディション受けるとき、これがいいって思った自分の気持ちを信じて、進んでみようと思うって」

あかり「うん!」

スミレ「ありがとうね、自分の気持ちが分かったの、あかりちゃんのおかげだ。 私も信じてみる、自分の気持ち」

第117話「歌声はスミレ色」

 ところで、この歌かモデルかの分かれ道の話は、どことなく「ヘラクレスの選択」を想起させます。「美徳へ続く茨の道と快楽へ続く桜草の道を前にして、ヘラクレスは前者を選んだ」というあれです。安易な刹那的快楽に溺れず険しい茨の道を進めば、その先には美徳*5がある。これもまた、ロリゴシックとの親和性の非常に高いモチーフではないでしょうか。そして、この選択が『いばらの女王』へと繋がっていきます。

 スミレはスターライトクイーンカップに際して、歌を極める決心を再び強く固め、インタビューではっきりこう答えました。「私は、スターライトクイーンになって、歌でアイドルを極めます」。それを見た魔夜は、ニヤリと不敵に笑う。それからすぐにスミレを呼び出し、こういうことを言います。

魔夜 「インタビューに答えてるのを見てね、スミレがクイーンを目指すためのドレスを作りたくなった。歌一つで、自分に厳しくアイドルの道を切り開いていこうとする君に惹かれたんだ。さながら、いばらの女王。進む道も茨なら、スミレの心の奥にも、まだ恐れの棘があるでしょう。それでも進もうとする意志の強さを、ドレスで表したい。僕に作らせてくれないか」

スミレ「是非!お願い致します!」

魔夜 「ありがとう。着るからには、クイーンになってよ」

スミレ「はい!」

第166話「私が見つけた最初の風」

 夢小路魔夜という人は、本当に微塵もブレませんね。ファンが多いのも合点がいくというものです。そういうわけで、最後はやっぱり『いばらの女王』の話で締めましょう。

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アンニーバレ・カラッチ作『ヘラクレスの選択』(1596)

 

The Girl with the Thorn in Her Side

 SA(スペシャルエー)ランクのフィーバーアピールというのは、改めて思い返してみると、非常に難度の高いものでした。神崎美月*6は「一番難しいSAを成功させた人を、私はまだ見たことがありません」(174話)と言っていますし、新条ひなきのステージに対して織姫学園長は「SAランクのフィーバーアピールはまさに異次元の領域。そこに近づけただけでも、新条を讃えるべきでしょう」(176話)という発言をしています。ですから、これはもう端的に、途方もなく難しいことなわけです。にもかかわらず、何故スミレはSAランクにこだわり、挑戦する道を選んだのでしょうか。これには大きく分けて、2つの理由が挙げられます。

 まず1つめは、(これは誰もが口を揃えていうことですが)彼女の成長を描くにはこうするのがベストだったいうこと。117話の時点では彼女は挑戦を諦め、一旦はモデルの道(桜草の道)へ進もうとしていましたから、彼女の成長を描くには、“挑戦”をもってするしかないわけです。スミレが見つけた最初の風に対する回答は、それ以外にありえない。加藤陽一が「ステージで失敗する展開は、4年目が始まる時から決まっていました」と言っていたのも、やはりそういうことだと思います。

 そして2つめは、彼女がロリゴシックの世界の住人だから。これについても今更説明する必要はないですね。「いつかそこへたどり着けるかもしれない」と信じて努力する女の子が、SAランクへの挑戦を投げ出すはずがありません。

 本来ならこの話はここで終わりです。176話のフィーバーアピール失敗は、放送当時は否定的な意見もそれなりにあり、SNSなども騒然としていたけれど、よくよく考えてみれば氷上スミレの成長とロリゴシックの在り方を丁寧に描いていただけだった、というだけのことです。なんですが、ここはもうちょっと深読みをしてみたい。先に断っておきますが、これから述べる解釈は、それなりに無理のある解釈です。

 

 さて、まずは夢小路魔夜の発言を、もう一度確認しておきましょう。

魔夜 「インタビューに答えてるのを見てね、スミレがクイーンを目指すためのドレスを作りたくなった。歌一つで、自分に厳しくアイドルの道を切り開いていこうとする君に惹かれたんだ。さながら、いばらの女王。進む道も茨なら、スミレの心の奥にも、まだ恐れの棘があるでしょう。それでも進もうとする意志の強さを、ドレスで表したい。僕に作らせてくれないか」

スミレ「是非!お願い致します!」

魔夜 「ありがとう。着るからには、クイーンになってよ」

スミレ「はい!」

 魔夜は「着るからには、クイーンになってよ」と言いました。これはもちろん、「僕の作ったドレスを着るからには一番を目指してよ」という、そのままの意味でしょう。けれど、ただ単に一番になるだけであれば、実はSAランクのアピールを出す必要はなかった。解説を務めた神崎美月はこう言っていました。

氷上さんは、フィーバーアピールの中でも最も難しいSAランクに挑戦したんです。やらなくてもトップを狙えたにも関わらず、挑戦することを選んだ。その姿勢は素晴らしいと思います。

第177話「未来向きの今」 

 もちろん、あかりがSAランクを出す可能性はありました。けれど、現実的に考えると、今まで成功例が1つもないようなことを最後の1人が成功させる可能性は、限りなくゼロに近い。我々の立場から見れば「大空あかりは主人公だから出すかもしれないなあ」と言うこともできますが、あかりはスミレのステージを受けて「やりきってくる、私も」と言ったわけですから、もしスミレが無難にAランクを狙っていれば、1位スミレ、2位あかりという結果もあり得たかもしれません。メタ的な視点に立ってさえ、そういうことになるんです。

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 まあともかく、彼女は挑戦することを選びました。当たり前ですが、これは本当に怖いことです。3年連続スターライトクイーンという前代未聞の偉業を成した人が、「まだ見たことがありません」と言うようなことです。しかも、「やらなくてもトップを狙えた」わけですから、もうデメリットだらけです。モデルの道に進もうとしていた時の彼女なら、挑戦を選ぶことはなかったでしょう。けれど、成長した氷上スミレは挑戦することを選んだ。そして結果は、アピール失敗でした。

 さて、この時のことをよく思い出してみてください。某プロ野球選手のことは思い出さなくていいですよ。

 「王冠の色に染められ」のところで、スミレはアピールに失敗し、一度床に倒れてしまいます。恐らく、かなりのショックだったと思います。このステージのために人一倍努力を積んできたにもかかわらず、この時点でスターライトクイーンへの夢は絶たれてしまったわけです。けれど、スミレはすぐに立ち上がり、再び歌い始める。そうです。彼女はロリゴシックが似合う女の子ですから、毅然と凛々しく、顎はツンと上向きに。アピールに失敗したぐらいでへにゃへにゃしちゃう女の子じゃない。そして、「凛としてステージの上 私 いばらの女王」と歌い終わった瞬間、オーラが復活します。凛とした表情を浮かべ、堂々とステージに立つ彼女の姿は、恐れの棘と闘ういばらの女王そのものです。失敗をものともしないその姿は、本当にかっこいい。ですから、私にはどうしてもこう見えます。この瞬間、彼女はいばらの女王クイーンになった、と。

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 この解釈が妥当なものか、飛躍しているのか、私にはよくわかりません。けれど、魔夜の言った「着るからには、クイーンになってよ」は、なぜだか「スターライトクイーンになってよ」という意味に聞こえない。「恐れの棘と闘ういばらの女王になってよ」の方がロリゴシックらしいと思ってしまうんです。

 

その声が地図になる

 そろそろまとめます。さっきは引用しなかったのですが、89話にはこういうセリフがありました。

私が強くなれたのは、「大好きなロリゴシックのドレスでアイカツしたい!」って気持ちがあったから。もしも今とは違う自分になりたいなら、まずは少しだけ自分を変えてみるの。いつもより10分早起きするとか、勇気を出して今より大きな声でおはようって言ってみるとか。かわいいお洋服をね、着てみるのもいいかも。そしてある日、鏡を見るの。きっと違う自分、憧れていた自分に会えるから。やってみて!*7

 けれど、藤堂ユリカでさえスキャンダルに負けそうになったことがあるわけですから、私たちもきっと、何かに負けそうになることがあります。だからこそ、氷上スミレはこう歌うんですね。

もし今あなたが 迷って泣いてるなら

ここへきて 地図をたしかめ ドレスに着がえ出かけましょう

 最初から強いわけじゃない私たちは、進む道を決めて、少しずつ自分を変えてみても、きっと迷ってしまうことがある。けれど、そういう時は一度ここに戻ってこればいい。そして、もう一度進む道を確かめ、勇気をくれるロリゴシックのドレスに着替えて、それからまた出かければいい。今はまだ幼い子どもたちも、いつか闘うべき時が来たら、彼女たちの姿を思い出すのだと思います。そして、「あの時ユリカ様が言ってたみたいに毎日頑張ろう」、「あの時のスミレちゃんみたいに私も挑戦する」と、地図をたしかめて歩いていける。「逆位置の意味ならば挫折になるとしても 夢や光や歌が美しいことを伝えた」彼女たちの偉大さは、どれほど強調しても足りません。

 そういうわけで、最後はやっぱりこの言葉で締めましょう。

涙に傘をさす 笑顔はホンモノで

いつでも あこがれが最初の道しるべ 

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*1:新潟県とサントリーが「青いユリ」の共同開発に成功

*2:Newtype』2017年8月号(角川書店、138頁)

*3:戦姫絶唱シンフォギアAXZ』第10話「アン・ティキ・ティラ」

*4:「アイカツ!108話「想いはリンゴにこめて」 リンゴにこめられた3つの想い」 - 末吉日記

*5:シェイクスピアの『ハムレット』では「天国へ続く険しい棘[いばら]の道」(the steep and thorny way to heaven)という言い方をしています。(第一幕 第三場、訳は河合祥一郎氏に拠る。)

*6:ご存知の通り、この人はスペシャルアピールを1曲中に4回出すという偉業を成した人です。

*7:本当にただの個人的な感想なのですが、私はここが『アイカツ』で一番の名シーンだと思っています。