cubic in another

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アニメの感想など

改めて『よりもい』を語る

宇宙よりも遠い場所』について言い足りなさみたいなものをずっと感じていて、なんだかもうどうしようもなくなってしまったので話を聞いてもらいました。私の拙い文章力では『よりもい』には敵わないみたいです。

K:このブログを書いている人。浪人を経て某大学で文学とかを学んでいる。好きなアニメは『アイカツ』と『ARIA』。
T:Kの友人。某理系大学院でセンサーみたいなものを作っている。好きなアニメは『新世紀エヴァンゲリオン』と『〈物語〉シリーズ』。

 

第1話,第2話の画作りと青春

K:『よりもい』は何もかもすごかったけど、言いたいことがたくさんあるのはやっぱり日本編(1〜5話)かなと思うので、今日はその話をメインにしていこうと思う。

T:うっす。初期のエネルギーは確かにすごかったよね。1話2話あたりを観た時の高揚感も、5話を観た時の「とんでもないぞこれ」って感覚も、はっきり覚えてる。

K:うんうん。本当にすごい作品だった。じゃあ1話の話からいきますか。有り体な言い方になっちゃうけど、1話ってすごくテンポがいいじゃない。目に映るもの、画面に映っているものがバシバシ繋がっていって、話数内での同ポもガンガンリンクする。

T:映像として隅々まで作り込まれてる感じがするよね。最初に出てきた鳥が最後に飛び立ったりとか、すごく綺麗にまとまってる。台所の蛇口から水滴が落ちて駅のホームに繋がるとことか、めちゃくちゃすげーって思ったなあ。

K:あのシークエンスは本当にすごいよね。『ハルカトオク』が流れて、公園のシーンとキマリの部屋のシーンを繋いで…。冷蔵庫に貼られた日本地図とかも天才的。

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© YORIMOI PARTNERS

K:あと、授業中のシーンが大好きなんだよね。黒板に“why don't you travel?”って書かれてて、先生がキマリの頭をポンと叩いて、音読してる生徒が“Enjoy your trip”って言う。天才だと思った。

T:あれ巧いよなあ。あと、走り出すところでしっかり尺を使ってるのも良い。エモい。

K:テンポがいいからこそ、そういうシーンにしっかり情緒があるんだよね。

T:…1話の話永遠にできるな(笑)。

K:確かに(笑)。話進めなきゃ。
 えっと、何が言いたかったかというと、1話の演出すごいよねっていうのはもちろんあるんだけど、これってただ映像として優れているだけじゃなくて、感覚がしっかり乗ってると思うのよ。

T:ほうほう。

K:普通に生活してるときって、あんまり景色って見えてないというか、見たものから何かを連想して考え事しながら歩いたりするじゃない。その感覚に近いなと思って。さっき話に出た“why don't you travel?”とか、100万円の広告とか、フレームの使い方とかもそう。カメラをポンと置いて撮影した感じが全くなくて、現実を見ている感じが全然しない。でも、高校生の頃とかの景色の見え方って、こういう感じだった気がするんだよね。「青春しゃくまんえん」とか「歌舞伎町フリーマントル」みたいな、ぶっ飛んだ脈絡で言葉が次々繋がっていく感じも、なんというか、若いなあと…。

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T:なるほどなるほど。言われてみるとそうかもしれない。目に入ったものがどんどん繋がっていく感じね。それでさらに被写界深度を浅くするわけだ。

K:そう。視野が狭いんですよ。*1 それで、目の前の笑顔が世界を覆い隠してしまう。これってすごく青春だなあと思うのよね。

T:2話アバンの報瀬の笑顔もそういう感じあるよね。世界を飲み込んでいくような感じ。

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K:そうそう、2話も素晴らしいよなあ…。

T:2話は無敵感がすごいよね。走るとことか感動しちゃって、次の日歌舞伎町行っちゃった(笑)。

K:(笑)。走ったの?

T:いや、さすがに走ってはないけど(笑)。中高生の時にこれ観たら走っちゃってたかもしれない。

K:それこそさ、もし今僕たちが高校生で、歌舞伎町走って観測隊員から逃げ回ってるとしてさ、そしたらもう周りの景色とか全く見えてないと思うんだよね。で、「青春だー」とか思ってめっちゃ笑っちゃうと思う。

T:確かに。その感覚が映像に再現されてるのかもしれない。背景ほとんど見えてないもんね。

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K:そう。だから、「ここではないどこか」を志向している時、「ここ」はもはや見えてないのよ。

T:名言来たゾ。

K:なんか恥ずかしいな…。まあともかく、2話の走るとこは12話に並ぶぐらいの名シーンだった。こんなにエモーショナルな映像なかなかない。

T:挿入歌の使い方が毎回卑怯なんだよなあ。キマリの「私の青春、動いてる気がする!」で『宇宙を見上げて』のサビに入るんだよ。エモすぎる。

K:挿入歌卑怯だよなあ。惜しみなく使う癖に全くマンネリ化しないのは、やっぱフィルム自体にエネルギーがあるからなのかね。あと、2話は大道具?小道具?の使い方が巧い。1話もだけど。

T:ああ。たぬきとかゴジラとか。

K:そうそう。あとグラスとか。差異で見せる演出も巧い。

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T:Kは同ポとか反復・差異が好きだよね。

K:そうかな。そうかもな。アニメ(というか映像)において、どのぐらいの時間差でカット同士をリンクさせるかって演出家の腕の見せどころだと思うんだよね。アニメーターとは違った意味での時間の創作というか、時間が規定された媒体における構成力というか…。

T:なるほど。言いたいことはわかる。

K:なんかごめん…。

「どこか」から「南極」へ

T:流れ的にこのまま3話の話する?

K:3話か…。3話はなあ…。

T:どうかしたの(笑)。

K:いや、「友達誓約書」のこと踏まえるとさ、3話って涙なしに観れないじゃない。なんかめちゃくちゃに泣いてしまって。

T:ああ、わかる。2周目で一番化ける回かもしれない。初見の時は、結月の「友達」への執着がどれほどのものかよくわかってなかったから。

K:そうそう。一つ一つの表情とか仕草とか、すごく刺さるんだよね。あと、このペースだと文字起こしの量がとんでもないことになりそうだから、ここからはちょっと軽めに…。

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T:(笑)。3話からはじめて監督以外の人がコンテ切るじゃん。*2 これ分担はどうなってると思う?普通にA/B?

K:どうなんだろうね。キャリア的に北川朋哉さんが演出見習いみたいな感じで指導してもらってるとかもありそうだけど、その辺は現場の事情がよくわかんないからなあ。そういえば北川さんは学生時代『夢』っていう作品を作ってるよ。で、『よりもい』3話のBパートに夢オチ演出があるという。

T:へぇー。処理演出でも大活躍の人だよね。2話に7話に12話。

K:そうそう。で、まあここまでが監督がコンテに参加してる回で、4話から神戸(守)さん澤井(幸次)さん清水(健一)さんと続いていくわけだけど、ここで画が監督の元から離れていくっていうのがまた大事だと思うのよね。画面全体に対するいしづか監督の支配力が弱まっていくというか…。

T:わかるようなわからんような。

K:1〜3話と4話だと、映像の質が全然違うじゃない。

T:それはあるね。テンポ感とかまるで違う。初見の時も「あ、今週はさすがに監督コンテ描いてないな」って思った。

K:そう。そこで解放されていくんですよ。1〜3話のバシバシ繋がっていく感じって、さっき言ったみたいに高校生が景色を見た時の感覚に近いってのもあるだろうし、無敵感も高揚感もスピード感もあるけど、同時に閉鎖的でもあると思うのよね。「ここ」があんまり見えてなくて、内面に寄り添ってる、一人称的な世界。それが、3話で連名でコンテを描いて、4話は神戸さんがコンテを描いて…という過程で、少し外に出る。で、キマリが「どこかじゃない、南極だって」(第4話)って言ったところで一気に景色が開ける。

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T:なるほど。そうやって「ここではないどこか」が具体的な場所になっていくと。そこまで考えて構成してるとしたら頭上がんないなあ。

決壊し、解放され、走り出す。淀みの中で蓄えた力が爆発して、全てが動き出す。

K:前にもブログにいろいろ書いたりしてたんだけど、1〜5話は監督が意図的に同ポを仕組んでると思うのよね。コンテ打ちでいろいろ指示してるのか、修正入れてるのかはわかんないけど。

T:うんうん。

K:で、同ポ率が最も高いのが教室だと思うのよ。教室でキマリとめぐっちゃんが会話するところは、大体アングルが決まってる。

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T:確かに。「代わり映えしない毎日」みたいな感覚あるかもね。

K:そうそう。それで、めぐっちゃん関連は他にも同ポが多いのよ。これが本当にすごくて、もう本当にすごい…。今日はその話がしたかった。いや前にも話したけど。

T:落ち着け(笑)。

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K:はい(笑)。要は、一人称的な無敵感を作っていた同ポ多用の画面が、ここ(5話)に来てめぐっちゃんの「淀み」に転化されるわけですよ。で、告白と作画のパワーによって、その「淀み」を一気に解放させる。だから、キマリたち4人の一人称的・思い込み的な無敵感を爆発させて、そのまま日本を飛び出すことと、めぐっちゃんの「淀み」を解放させることが、演出として一切矛盾しない。で、日本に閉塞していた画面が、一気に海外へ飛び出す。5週間かけて溜めたものが決壊して、全てが動き出す。

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T:なるほどなあ。あの独白*3 って1話の最初の最初で使われてたやつだもんね。それを5話の最後に持ってきて、その囲いを一気に解放して、閉鎖的な画作りからも解放して、日本を飛び出して、同時にめぐっちゃんも動き出すと。

K:そう。しかも〈流れる水〉のイメージを反復してもいる。恐ろしい。 

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左:1話/右:5話

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T:なるほどねえ。告白と作画のパワーでっていうとこでいうと、ちゃんとブサイクな表情芝居があるのもいいよね。5話に限ったことじゃないけど。

K:キャラデの時点で鼻の穴あるしね。記号化された「かわいい」顔じゃないのはすごくいいなあ。

T:あと、5話は出発前の感じがよかった。ワクワクと寂しさが同居したあの感じ。家を出た経験がある人なら誰でも感じたことある感覚だと思う。

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日向と報瀬、日向とめぐみ

T:さっき3話は2周目で化けるみたいな話したけど、5話6話あたりもわりと化けるよね。特に報瀬と日向の関係性。日向の過去って1周目はなんとなくそれっぽいことを想像することしかできなかったから、2周目だと結構見方が変わる。

K:確かに。この2人いろいろ対照的だからね。

T:「悪意に悪意で向き合うな」のくだりとかさ、日向は報瀬にはない強さを持ってるんだなあみたいに思ってたけど、実はそんなことないんだよね。日向には諦めグセみたいなのがあって。

K:どうしようもないものはもう仕方ないみたいな。

T:そう。そんな日向が報瀬の「あながちさ」というか、「かたくなさ」に影響されて、ちょっと変わるのが6話だと思う。

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K:確かになあ。それでいうとさ、「悪意に悪意で向き合うな」のとこのフレーム内フレームあるじゃない。

T:はいはい。

K:あれさ、1周目と2周目でわりと真逆の印象があったのよね。はじめて観た時は日向の強さみたいなものを感じたんだけど、2周目は逆だった。

T:ほうほう。

K:疎外感を感じていて、その殻みたいなものをどうにかして破ろうとしているって意味では、めぐっちゃんと日向って共通してるじゃない。で、めぐっちゃんは背を向けてるんだけど、どうにかして向き合おう、変わろうってしてる感じがするのよね。闘ってる感じ。でも、日向は逆で、堂々と構えて向き合ってるんだけど、そこから動こうとはしていない感じがする。ていうか実際、ベンチから立ち上がるシーンが描かれてない。これ、初見の時の印象とはほぼ真逆かなあと。

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T:あー確かに。こっからめぐっちゃんは「絶交」を切り出して、しかも北極行っちゃうわけだしね。

K:そうそう。まあ何が正解ってわけでもないんだけど、こういう多義性があるところって面白いよね。映画でも小説でもなんでも。 

「南極」が具体性を帯びるまで

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T:さっきまでの話踏まえると、7話はちょっと日本にいた頃の画面に戻った感じあるよね。同ポというか、船を捉えたカットを反復したり、被写界深度浅めだったり、モンタージュ的なカット繋ぎもちらほら。

K:そうね。こっからまさに南極行くぞって回だし。報瀬が机で見上げるところからのカットの繋ぎ方とか好きだなあ。あと全員バラバラの方向指すのがいい。

T:わかる。挨拶の時も、全員目的違うんだよね。でも全員南極の方向いてる。

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K:しかも報瀬の背中を押すのが日向なんだよなあ…。

T:そう! で、日向が考えた台本の言葉(「キャッチーでウィットでセンセーショナル」)を使う。あれはグッときた。アツい。

K:バラバラだけど同じ方向向いてるっていうのは、観測隊の人たちも同じよね。だから、ほら、報瀬が顔上げるとこあるじゃない。

T:はいはい。

K:ここって、まあお母さんのこととかいろいろあると思うんだけど、ここで顔を上げて観測隊の人たちを見て報瀬が感じ取ったことって、到底言葉では表せないような、どうにも言い難い感情だと思うのよ。

T:あー。ここすごい密度だよね。「3年前のメンバーが全員帰ってきた」ってことに対して向き合うっていう。

K:そうそう。美しさと暗さが同居してる感じもまた何とも言えない。

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T:で、まあ南極に向かうわけだけど、8話の飛び出すとこあるじゃん? あれどう思った?

K:ああ、外出ちゃうとこ? 普通にびっくりしたよ。「死ぬぞ」って思った。

T:だよね(笑)。でもこれもありだなって思う。不思議。

K:8話はなんかいろいろすごかったよね。観てるだけで酔いそうになった。VRとかやると結構酔うじゃん。あんな感じで。

T:わかるわかる。映画館で観たら気持ち悪くなりそう。あと、「キマリはコンパスが得意」っていうのが効いてきてる気がしたなあ。

K:確かに。ここぞって時にビシッと指差すのはキマリなのよね。

T:そう。「選んだんだよ」って。それで「南極」っていう場所が具体的になっていく。

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K:具体性を帯びてく感じはすごいあるよね。なんとなく夢に見てた世界が眼前に現れて圧倒される感じ。で、単純に景色が綺麗だから、なんかこう、すごく感動する…。入射光とかもすごくいいんだよなあ。

T:最近の水の表現ってすごいよね。確か『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』の7話が放送日近かったと思うんだけど。

K:はいはい。

T:湖の上歩こうとするとこあったじゃん。バレットタイムみたくなるやつ。

K:あったなあ。あれもすごい綺麗だった。

T:あと、ちょっと前だと『宝石の国』の海とかも。…いや、話戻そう。

K:(笑)。まあ、散々揺れててずっと暗かった分、最後にパーっと開けて明るくなった時にしっかりカタルシスがあるよね、8話は。

T:そうだなあ。AパートBパートも綺麗に分かれてるし、結構手堅い構成だと思う。 

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「感染力」と「パーシャル友情」

T:結局全話コメンタリーみたいになっちゃってるけど大丈夫?

K:まあ観返しながらしゃべってたらそうなるよね。しょうがない…。9話は言いたいことたくさんあるし。

T:放送終わった時「感染力がやばい」とか言ってたよね。

K:言ってた言ってた。いやホントやばいんだよ。別に説明することでもないと思うけど、まあこの会話よね。

「貴子、わざと私とあの子2人にしようとしてるでしょ?」

「してるよ〜。だってあの子には吟ちゃんの魂が必要だから」

K:で、二重跳びっていう動作を通して、報瀬のしつこさとか、諦めの悪さみたいなものが描かれてるわけだけど、明らかにそこに吟隊長の影響があるじゃない。

T:親みたいだもんね。「感染」っていうのもすごいわかるよ。いろいろ教えたりとかもしてるけど、そういうのだけじゃなくて、もっと深いところで影響しあって感染していく感じがある。

K:そうそう。その想いの集合体みたいなのの密度がものすごくて、めちゃくちゃに泣いてしまった。貴子が「いったれー!」って言って、氷が砕けるじゃない。あそこで、ああ生きてるんだなあ、受け継がれてるんだなあと思って。

T:しっかり残って、伝染していってる。

K:そう。人ってああやって育つんだなあって思ったのよね。根本のところで響き合って、伝染していくというか。報瀬のしつこさと思い込みの強さは、「母親譲り」なんて言葉で片付けてはいけないなあと。

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T:じゃあ、「パーシャル友情」の話もしますか。

K:ああ。“our friend”のとこでめちゃくちゃ泣いたなあ。

T:泣いた泣いた。12話の次ぐらいに泣いたかなあ。あと、結月にメールが届いた時の報瀬の視線が気になった。2周目の発見。

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K:そういうとこ丁寧よね。あと10話は掃除のリズムがよかったなあ。外出てドア閉まってすぐ日向のアップになったりとかも。

T:あの辺よかったね。足で踏んでモップ絞るやつとか。カット割りのテンポ感もすごくいい。

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T:「パーシャル友情」ってタイトル自体の話はしなくていいの?

K:ああ。あんまりまとまってないけどなあ。
 パーシャルって冷蔵庫のパーシャルで、パーシャル丼のパーシャルじゃない。つまり凍結してるんだかしてないんだかよくわかんない、どっち付かずの状態。友情ってそういうもんなのかなあと思って。

T:報瀬が「友達なんて親子とも夫婦とも違う、ぼんやりしたもの」って言いよるもんね。口元にパーシャル丼の米粒付けたまま。

K:そう(笑)。だから多分簡単に凍っちゃうし、でもすごくフレッシュで。で、パーシャルって「大好き」っていうか、「何かを偏って愛する」っていう意味もあるから。“She is partial to Yu-Jo”ってことでもあると思うのよね。

T:おお、英文科っぽい。

K:いや、なんか違う。この話やめよう。あと英文科は翻訳しか読まなくても卒業できる。

T:そうなの(笑)。あと印象に残ってるのは、やっぱりめぐっちゃんの既読のくだりかな。

K:あれね。僕ら高校の頃まだメールだったし、LINEはじめるにも微妙に抵抗あった世代だけど、こういうのいいなあって思ったよ。

T:そうそう。「Re: Re:…」で続いてくのもいいけどね。メールの時代だと「友達ってたぶん、ひらがな一文字だ」って発想は生まれなかったかもしれない。

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9話,10話,11話の構成と佐山聖子コンテ

T:で、佐山(聖子)さんの11話がくると。

K:最近『あまんちゅ』で大忙しの佐山さん。

T:3週連続コンテ描いてたね。*4 そういえばサトジュン総監督になっちゃうの悲しがってたじゃん。

K:発表された時はね。でもよく考えたらすごい贅沢なのよ。佐山さんが監督で、(佐藤)恭野さんが選曲、サトジュン総監督兼音響監督。毎週幸せですよ。あんまり懐古厨みたいなこと言いたくないけど、木村隆一×加藤陽一の『ピカちんキット』と天野こずえ×佐藤順一の『あまんちゅ』観れるってすごいのよね。生きててよかった。

T:『エヴァ』はいつ公開されるんだろうな…。

K:あっ…。

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©西尾維新講談社アニプレックス・シャフト

K:まあともかく11話ですよ11話。

T:11話も泣いたなあ。すごく熱い涙が出た。友情っていいなあ。

K:いいよねえ。結月も「いいじゃないですか!友情じゃないですか!」って言ってたし。

T:そう。パーシャル友情の次にこれがくるのが最高なんだよ。

K:脚本構成的なところが9,10,11話はすごく上手いのよね。この辺は制作中に何稿も重ねてくうちにこうなったのかなあ。

T:そうなの?

K:花田さんって頭から書いてって、上手くいかないと第二稿でガラッと変えたりするらしいのよ。だから自分で全話書かないと困るというか、そういうアドリブ的な変更が利かなくなっちゃう、って何かのインタビューで言ってたはず。

T:へぇー。確かにこのあたり脚本家が何人もいるとできなかったかもね。

K:本当に見事よね。日向にとっては南極は「何にもない」ところで、「何にもないから」来た。*5 でもそれはある意味逃避でもあって、「宇宙よりも遠い場所」に来てまでしがらみに追い立てられる。でも報瀬にとっては「変える」ための場所*6 で、それは9話で示されてて、報瀬と日向がぶつかりあって、「宇宙よりも遠い場所」が前に進むための場所になる。しかも間に10話が入ってるから、「友情」ってところが補完されて、12話で報瀬も前に進めるか不安だってことが描かれて、前に進んで…。いや完璧すぎるよこれ。

T:前にブログに書いてたよね。

K:あんまり上手く書けてないけどね。

T:そんなことないと思うけど。あ、でも「ある意味世界で一番綺麗な水」を日向が運ぶことの話は、正直よくわからんかった。

K:ああ。あれは、なんて言うんだろ。日向にとって報瀬ってどこまでも真っ直ぐで、世界で一番綺麗に見えてもおかしくないと思ったのよ。綺麗すぎて重たい。少なくともあのシーンでは。だから「手だけでいい」って言って、やっぱり日向はちょっと距離を置こうとして、おどけて見せたりもするんだけど、でも手を通して痛みが報瀬に伝わってしまうっていう。この〈綺麗〉〈重い〉〈痛い〉のやり取りの密度がすごいなあって思った。

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T:なるほどねえ。確かにすごい密度だ。11話っていろいろすごいんだよな。これ話続けて大丈夫?

K:大丈夫。最初に1〜5話とか言ったけど他の話数も言いたいこといっぱいあるし、いやむしろ他の話数の方があるかもしれないし、全部言っちゃおう。

T:よっしゃ。日向の過去を語るとこあるじゃん。あれ、帽子をかぶりながら無理矢理笑うっていう芝居がすごいのもあるんだけど、普通に語るんじゃなくて、ヘリに乗ってる時の回想って形にしてるじゃんね。

K:はいはい。

T:これ、結月が高所恐怖症で頭を抱えてるっていう画自体が、重たいニュアンスをしっかり補強してくれてて、こういう視聴者心理に寄り添った演出すごくいいなあって思ったんだよ。どこまでが意図されたものかはわかんないけど。

K:ああ確かに。巧いなあ。全員別々の方向向いてるのとか、ヘリの無機質な内装とかも重たいニュアンスあるし。

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K:あとやっぱりラストかな。あれはもう…。

T:熱いよなあ。

K:初見のときはボロボロ泣いてわけわかんなくなってたんだけど、2回目観てみると気づくこともあって、これ日向から見た時だけ報瀬が上手かみてにくるようになってるのよね。話しはじめたときは下手しもてで、「私は日向と違って性格悪いから〜」で上手になる。こういうのすごく丁寧で、だからこそ伝わる画になるんだろうなあ。

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言うことなしの12話

K:さて、12話なんですけど、もう言うことないよね。

T:何か言うのも野暮なんだよな。人それぞれ心に響くものがあるでしょうってことで。

K:ずけずけと出てってあれがどうこれがこうとか説明するのもなんか違う。

T:まあでもね、重要な回だからね。

K:そうねえ。コンテの分担とかどうなってると思う?

T:どうなんだろ。『リトルウィッチアカデミア』の最終回は全体の流れに関わるとこを吉成(曜)さんが描いてて、かっこいいとこは今石(洋之)さんって話あったじゃん。そんな感じじゃないの。

K:まあそれが自然か。全体に関わる重要なところをいしづか監督が描くと。

T:そうそう。

K:えっと、これもう結論めいた話になってくるんだけど、12話って結構ドキュメンタリータッチなのよね。ドキュメンタリーは言い過ぎかもしれないけど、手持ちでカメラを持って振ってるような感じがする。

T:確かにね。劇伴もちょっと少なめだし。まあシナリオ的にそうなるってのもあるだろうけど、1話からちょっとずつそういう、三人称的な感じ?の画作りになってる気はするよ。12話は手ブレがすごいとか言ってたよね?

K:うん、言ってた。最後の探し回るとこね。心の揺れ動きの表現と、ドキュメンタリータッチのリアルさが共存してて、すごいなあと思って。こういうマジックってアニメでしか起こらないと思うから。FIXとPANを基準にすればって話にはなるけど。

T:そうかもね。実写的なカメラワークを取り入れることと感情を画に乗せることが同時に達成されてしまうと。

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K:そうそう。まとめてくれて本当助かる。あとは、「このセリフが〜」とか「報瀬のメールが〜」とか言い出すとキリがないんだけど、その辺に言及するのはやっぱり野暮かなあ…。

T:ていうか12話観てから会話のテンション下がってるよね、いい意味で。

K:うん。仕方ない。そういうもんだよ。

T:13話もあんまり言うことないなあ。髪切るのとか、吟隊長がメール送るのとか、「知ってる」とかいろいろあるけど、これも言及するの野暮な気がする。

K:そうねえ。じゃあまとめますか。

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「現実の中に奇蹟を追うこと」

K:はい。じゃあまとめなんですが。

T:はい。

K:被写界深度の話したかったんだけど、改めて13話観ると結構ボケボケのカットもあるから、その話はあんまりできないのよね。

T:そうなの(笑)。それにしても1話2話のぼかし方が一番過剰な気はするけどね。ほら、自転車置き場のとことか。

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K:それもそうか。じゃあその話すると、この前もっともらしく安吾を持ち出して変な文章書いたんだけど。もう消したんだけど。

T:はいはい。

K:まああれですよ。1〜5話の構造の話したじゃない。要はあれのことなんですよ。安吾『青春論』に「現実と直接不離の場所にある奇蹟」って言葉があって、これがぴったりだなって思って引用したんだけど。「思い込み」みたいなもので奇蹟を信じてしまって、それを追って飛び出してしまう。そういう無謀な力が人を一歩前に進める、っていう。だから、1話からものすごい勢いで加速していって、徐々に夢見ていた景色が具体的になっていって、最後は見慣れちゃったねみたいな。

T:なるほどなるほど。13話の旅の終わり感すごいもんね。「すっかり慣れちゃいましたね」って言いよるし。

K:そう。だから、ある意味失恋なんですよ。知らない景色って見てしまったら知ってる景色になるわけだから。この辺ホント上手く言えないんだけど。

T:日向みたいなこと言うなあ(笑)。まあでもわかるよ。要は最後の独白のとこでしょ。

K:そうそう。「旅に出て、はじめて知ることがある」からのあのセリフ。*7 あの感覚がまんま映像として表現されてるように思ったのよね。1話2話と12話13話だと、映像の質が全然違うなと思ったから。

T:なるほどねえ。

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K:で、それをさらに広げると、やっぱ「思い込み」だよなあと。「しつこさと思い込みの強さ」。

T:「思い込みだけが現実の理不尽を突破し、不可能を可能にし、自分を前に進める」と。

K:そうそう。雲もそうよね。「掴めないのに、上見るといつもそこにある」。そういうものを追いかけて、誰に何と言われようと追いかけて、もうそこしか見えなくなっちゃって。それで氷を砕きながら「宇宙よりも遠い場所」まで必死に進んで、そうやって「ざまあみろ」って言ってきた人たちが誰も踏んでない場所に足跡をつけてきたんだろうなと。

T:あーわかってきた。1〜5話の感じは確かに「思い込み」って感覚あるなあ。あと、かなえさんの「大人はね、正直になっちゃいけない瞬間があるの」ってセリフがすごい好きなんだけどさ。

K:はいはい。

T:これも同じかもしれない。正直になっちゃったらもうバカみたいな、現実味のない話なんだけど、それでも無理に嘘を吐き通して、何が何でも前進するぞっていう。

K:確かに。すごいなこれ…。

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「きっとまた旅に出る」

K:で、まあ“Best wishes for your life's journey!”で終わるわけだけど、今話してたみたいなこと全部ひっくるめて「人生の旅」なんだと思うのよね。遠くに足を運ぶかどうかは関係なく、「思い込み」から飛び出して、何か違う景色を見て、そしたら何か変わってる。ちょっと前に進んでる。人生ってその繰り返しだと思うし、それってすごく青春じゃんって。年齢とか関係なく。

T:『よりもい』は形のあるものにあんまり重きを置いてないもんね。「しゃくまんえん」も置いてきちゃうし。こことかすごくそう。

そしてわかった気がしました。母がここを愛したのは、この景色と、この空と、この風と同じくらいに、仲間と一緒に乗り越えられる、その時間を愛したんだと。

K:そう。だから「きっとまた旅に出る」んだよ。「どこまでいっても世界は広くて、新しい何かは必ず見つかるから」。で、その時間ってすごくかけがえのないものだよねっていう。

T:青春だ…。

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K:じゃあ、今日は本当にありがとうございました。最後に何かある?

T:えーっ、そうだな。あっ、監督が花澤(香菜)さんに“報瀬ちゃんは「残念美人」”って言ってたって話が好きです(『ニュータイプ』2017年2月号)

K:はい。ありがとうございました。

 


 


*1:ここの会話は、『アニメスタイル007』の『響け!ユーフォニアム』についてのインタビューを前提にしています。

小黒 被写界深度の話に戻りますが、被写界深度の浅い画と、パンフォーカスで手前から奥までよく見える画では、表現できる事が違うはずですよね。「青春ものをリアルにやる」という作風には、今回の画作りが向いていた気がします。
山田 そうですね。青春の、視野の狭さと。余裕のない瞳孔の開いた感じと。
石原 「そこしか見ていない時の感じ」ですね。被写体を画面から浮き立たせたい場合に、被写界深度を狭めてそこだけ映す。ただ今回はキャラクターが多かったので、ひとフレームに収めなければならないシーン等では必然的にパンフォーカスになる事もありました。

「真っ向勝負で作った「青春アニメ」」『アニメスタイル007』より

*2:『宇宙よりも遠い場所』各話リスト(Wikipedia)
(別窓でこれ開いてた方が読みやすいかもしれません)

*3:

淀んだ水が溜まっている
それが一気に流れて行くのが好きだった
決壊し、解放され、走り出す
淀みの中で蓄えた力が爆発して
全てが、動き出す

*4:この会話をしているのは、『あまんちゅ!〜あどばんす〜』が第4話まで放送された時点。現時点(2018年5月19日)では5週連続でコンテを切っている。

*5:「私がさ、何で南極来たと思う? 何にもないからだ! 何のしがらみもない人と、何にもないところに行きたかったんだよ。」

*6:「帰ってくるのを待っていた毎日とずっと一緒で、何も変わらない。毎日毎日思うんです。まるで帰ってくるのを待っているみたいだって。変えるには行くしかないんです。お母さんがいる、「宇宙よりも遠い場所」に。」

*7:

旅に出て はじめて知ることがある
この景色が かけがえのないものだということ
自分が見ていなくても 人も世界も変わっていくこと
何もない一日なんて 存在しないのだということ
自分の家ににおいがあること
それを知るためにも 足を動かそう
知らない景色が見えるまで 足を動かし続けよう
どこまでいっても 世界は広くて

新しい何かは必ず見つかるから
ちょっぴりこわいけど きっとできる
だって
同じ想いの人は すぐ気づいてくれるから