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アイカツについて

The Queen Is Alive ——ロリゴシックを読む

 


(本文中は全て敬称略)

 本稿は、ロリゴシックと夢小路魔夜、及び藤堂ユリカ、氷上スミレについて書いたものです。非常に先行研究の多い分野で、特に氷上スミレという人に関しては実に多種多様な考察がなされていますから、今更私が何か言うのもどこか二番煎じ感があるのですけれど、やっぱり『アイカツ』考察みたいなことをしていると避けて通れない分野なんですね。不思議な求心力があります。

 

前提:ゴシック&ロリータとは何か

 さて、ロリゴシックはゴシック&ロリータ、つまりゴスロリのブランドですから、ロリゴシックの話をするにあたっては、まずゴスロリの定義を明らかにしなければなりません。ゴスロリについては、霧矢あおい大先生が、作中で簡潔な説明をしてくださっています。

正しくはゴシック&ロリータ。少女の夢や、底に潜む心の闇を自己表現するファッションと言われている。アイカツカードのブランド、“ロリゴシック”もその一つ。

第19話「月夜のあの娘は秘密の香り」

 本来ならゴシックやロリータの歴史や定義について細かく説明するべきところだとは思うのですけれど、恥ずかしながら私自身がほとんど何も知らないので、ここでは上記の説明を“『アイカツ』におけるゴシック&ロリータの捉え方”としてそのまま受け取ることにします。ちょっとずるいような気もするのですけれど、付け焼き刃の知識で適当なことを書くよりはいいかなと。それに何より、「少女の夢や、底に潜む心の闇を自己表現するファッション」であるという点が、私には非常に重要なことのように思えます。ともかく、そういうことも含めて、夢小路魔夜の考え方と、ロリゴシックの世界の住人である藤堂ユリカ、氷上スミレ両名のアイドルを中心に、ロリゴシックを着るとはどういうことかを考えていきましょう。

 

There Is a Light That Never Goes Out

 ロリゴシックと言われると、ユリカがプレミアムドレスを手に入れる20話「ヴァンパイア・スキャンダル」のエピソードが真っ先に思い浮かぶ、という方も多いのではないでしょうか。このエピソードには、デザイナー夢小路魔夜の考え方やロリゴシックというブランドの特色が、実に色濃く表れています。まずはこのエピソードから詳しく見ていきましょう。魔夜は「僕の自信作」と自称するゴスマジックコーデをユリカに披露し、こう語りました。

今の君に、このドレスが着こなせるの?僕のドレスはね、強い女の子にしか似合わないんだ。毅然と凛々しく、顎はツンと上向きに。こんな写真撮られたぐらいでへにゃへにゃしちゃう女の子には着て欲しくない。

 対してユリカは、魔夜が持っていた雑誌を奪い、暖炉に投げ捨てる。その後の2人のやり取りも、そのまま引用します。

ユリカ「私は…私はプレミアムドレスが着たいの!あのドレスを着れば、もう一度ファンの前に立つ勇気が持てると思うから!だからお願い、ゴスマジックコーデを私にください!」

魔夜 「デザイナーは魂を込めて服を作る。だから、その服にふさわしい人間に着てもらいたいと願う。今の君が、このドレスにふさわしいと胸を張って言える?」

ユリカ「言えません…。でも、私、ロリゴシックのドレスが大好きなの!今はまだプレミアムレアドレスにふさわしくないかもしれない。でも、きっとそうなる!そのためならどんな努力もする!私は、誰よりもロリゴシックのドレスにふさわしいアイドルになります!」

 (…)

魔夜 「高い目標を目指して登っていけば、いつかそこへたどり着けるかもしれない。僕はそうやって努力する女の子が好きなんだ。君には、きっとこのドレスが似合う」

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 ここからわかる通り、夢小路魔夜の求める「強さ」は、普通の意味での強さではありません。それは、現時点での弱さ、至らなさを認めた上で、それでも高い目標を目指して努力する、そういう「強さ」です。そして、ロリゴシックのドレスは、「そうやって努力する女の子」にこそ似合う。そういう女の子の背中を押してくれる。前に進む勇気をくれる。89話に「気弱な主人公が仮面で変身して活躍する」という内容の『変身カレンダー』という本が登場しますが、ロリゴシックのドレスは、まさにその仮面のようなものです。この在り方は、作品全体を通して、全くブレていません。

 そういうわけで、弱さを受け入れた上で、それでも強くあろうとしたユリカの成長は、89話「あこがれは永遠に」で示されることになります。ユリカに憧れる少女、持田ちまきに「どうしたら、私もユリカ様みたいに強くなれますか?」と尋ねられ、ユリカは戸惑ってしまう。そして、「強さに憧れてた頃の私」を思い出す。悩んだ末、「昔から強かったわけじゃない」彼女は、「普段の私」をちまきに見せることで彼女の質問に答えました。

 この時の『永遠の灯』のステージでユリカが着用したのが、ナイトメアカプリコーンコーデ。青いバラをあしらった、山羊座のプレミアム星座ドレスです。この青いバラというモチーフについては、『アイカツスターズ』の方でも白銀リリィに関連するモチーフとして使われているので、ご存じの方も多いかもしれません。「不可能」と「夢かなう」という、対照的ともいえる2つの花言葉を持ち合わせた花です。

 この花言葉について簡単に説明しておくと、バラには本来青色の色素がないんですね。だから、青いバラblue rose)は、「不可能」、「存在しないもの」を表すものだった。ところが、その「存在しないもの」を存在させようとする人たちが表れてきます。そして、気の遠くなるような実験を重ね、たゆまぬ努力を続けた末、サントリーの研究者チームがついに青いバラの開発を成功させる。その際に「夢かなう」という花言葉が付けられたというわけです。

世界初の青いバラは「SUNTORY blue rose Applause」と名づけられ、販売が開始されました。アプローズとは「喝采」という意味で、花言葉は「夢 かなう」です。夢をかなえるために努力してきた多くの人へ喝采を贈りたいという想いが込められています。

開発ストーリー|世界初!「青いバラ」への挑戦

 繰り返しになりますが、青いバラは本来存在しないものです。開発された青いバラは、あくまで遺伝子組換えによって作られた、人工的なものに過ぎません。けれど、それは確かにそこに存在し、実際にたくさんの人を喜ばせている。

80代の女性から「長生きした甲斐がありました」というお手紙と共に、青いバラをモチーフにした手作りの刺繍を贈っていただいたことも。見ず知らずの私たちのために一針一針縫ってくださった姿を思うだけで涙が出ます。

開発ストーリー|世界初!「青いバラ」への挑戦

 藤堂ユリカも同じです。彼女も吸血鬼という「存在しないもの」を演じることで夢を叶えてみせました。弱さを克服して見せました。そんな彼女の姿は、夢に向かって努力する多くの人たちに、今も勇気を与え続けています。

 ところで、2ndシーズン後半には、完結編と言えるようなエピソードがいくつかありますね。見方にもよりますが、例えば、霧矢あおいなら71話「キラめきはアクエリアス」、音城セイラだと95話「夢の咲く場所」などなど、世代交代前に特定のキャラクターの物語を一旦締めくくるような、そういうエピソード。89話もその一つだといえると思います。そして、これらはもちろん「終わり」を意味するものではありません。最初に『START DASH SENSATION』について書いたことと同じ主旨の話になりますが、『アイカツ』は物語が収束してしまうことを、注意深く避けてきました。恋愛を御法度にしているのも、そういう理由からでした。

(木村隆一) ちょうど僕が作業を始める頃は、『プリティーリズム』という女児向けのアイドルアニメが大人気でした。だから、同作といかに差別化するかをまず考えました。大きなところで違いを出すのは難しいなと思ったので「細々としたことを積み重ねて、違う雰囲気のものにできたらいい」と思っていたんです。『プリティーリズム』がわりと正統派の少女マンガ路線だったのに対し、本作の場合は「スポ根もの」というテーマがあったので、恋愛要素はあまり前に出さないようにしようと考えました。とはいえ、当時少女マンガや少女雑誌をいろいろ読むと、どれも恋愛の話ばかり。それでも、恋愛の絡まないところでひとつ世界観を作れないかなと考えていたので、これが特徴といえば特徴ですかね。

——「恋愛には触れない」というコンセプトからスタートしたんですね。

 恋愛をあまり前に出さないようにしようと思った理由がもうひとつあります。恋愛があると、どうしても思いが成就したところで、お話が終わってしまうんです。プロデューサーから「作品を長く続けたい」と言われたこともあって、あまり物語が収束してしまう世界観を作らないようにしようと思いました。

アイカツ!オフィシャルコンプリートブック』(学研パブリッシング、2014年、130-131頁)

 ですから、当然89話も「終わり」を意味するものではない。それはそうです。そうなんですが、89話の場合は、またちょっと違った意味合いがある。というのも、ロリゴシックには元から「終わり」なんてないんですね。夢小路魔夜の言ったことをもう一度引用します。

高い目標を目指して登っていけば、いつかそこへたどり着けるかもしれない。僕はそうやって努力する女の子が好きなんだ。君には、きっとこのドレスが似合う。 

 そういうことです。つまり、ロリゴシックが似合うのは「いつかそこへたどり着けるかもしれない」と信じて努力する女の子ですから、強くなったことに満足してしまってはいけない。だからこそ、魔夜が「成長した藤堂ユリカに着てもらいたい」と言うナイトメアカプリコーンコーデには、「不可能」を意味する青いバラがあしらわれているわけです。

 そして、藤堂ユリカはロリゴシックが似合う女の子ですから、不可能性をその身に纏って、どこまでも高みを目指していく。「いつかそこへたどり着けるかもしれない」と信じ、「脆く儚い心」を灯して。青いバラのドレスを纏って堂々とランウェイを歩く彼女の姿には、そういうロリゴシックの「強さ」が確かに感じられます。その姿から、持田ちまきをはじめとした「弱さ」を抱えた少女たちは、たくさんの勇気を受け取ったことでしょう。

 ところで、これは余談ですが、青いバラを開発したチームも、不可能への挑戦をやめたわけではありません。そして2012年5月9日、新潟県サントリーは、青いユリの共同開発に成功したと発表しました。*1 不可能を可能に変えた果ての、さらなる不可能への挑戦。その挑戦がユリの花だったのは、単なる偶然でしょうか。 

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「偉大なるぺてん師」の魔法

(一応断っておきますが、ここからは『オズの魔法使い』、『リトルウィッチアカデミア』、『亜人ちゃんは語りたい』の3作品のネタバレを含みます。『オズの魔法使い』以外は内容に深く触れることはしませんが、念のため。)

 氷上スミレについて書くならまずは108話「想いはリンゴにこめて」の話から、と思っていたのですが、ちょっと先にグロウスドロシーコーデの話をしようと思います。というのも、グロウスドロシーコーデについて、夢小路魔夜が「これぞ、ロリゴシックの王道と言える自信作だ」(144話)と言っているんですね。そうなると、ちょっとこれは無視できない。実際、このドレスには「これぞロリゴシック」といえるようなものが仮託されているように思います。

 一応このドレスについて、簡単な確認をしておきましょう。グロウスドロシーコーデは、『オズの魔法使い』のドロシーをイメージしたドリームドレスです。アニメ本編では、144話「ドッキリアイドル大作戦!」の『エメラルドの魔法』のステージでスミレが着用していました。『エメラルドの魔法』の歌詞も、明らかに『オズの魔法使い』を意識したものになっています。

 『アイカツ』と『オズの魔法使い』については、切っても切り離せない関係があるようで、やはり素晴らしい考察がいろいろなところでなされていますから、ここではロリゴシックとの関係に絞って話を進めていこうと思います。

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 さて、先ほどロリゴシックの「強さ」は、現時点での弱さ、至らなさを認めた上で、それでも高い目標を目指して努力する、そういう「強さ」だ、という話をしました。その意味で、ロリゴシックの「強さ」は「弱さ」と不可分です。そして、この「強さ」の在り方は、『オズの魔法使い』に登場する脳みそのないかかし、ブリキのきこり、臆病なライオンと重なるところがあります。

 『オズの魔法使い』では、かかしは脳みそ、きこりは心、ライオンは勇気、各々が足りないものをオズ大王にもらおうと、ドロシーと共にエメラルドの都を目指して旅をします。最終的に、彼らは皆、その足りないものを手に入れることになります。

 では、偉大なる魔法使いオズ大王が、脳みそや心や勇気を、魔法を使って彼らに授けてくれたのか。違いますね。彼らは皆それぞれ望むものを持っていなかったからこそ、それを手に入れることができたのでした。

 わらの詰まったかかしは脳みそがありませんから、誰よりも一生懸命ものを考えます。かかしの考える策がなければ、ドロシーたちは命を落としていたかもしれません。崖や川を越えることができたのも彼のおかげです。一方、ブリキのきこりは心がありませんから、誰よりも人に優しくしようと常日頃から心がけます。野ネズミの女王を助けたのも彼でしたし、泣けば口が錆びついてしまうというのに、彼は劇中何度も涙を流しました。そして臆病なライオンは、これはひどく逆説的な言い方になりますが、臆病だからこそ勇敢になれたのでした。

「でもわしの勇気はどうなる?」心配そうにライオンが聞いた。

「勇気に満ちているじゃないか、あんたは」オズがこたえた。「あんたに必要なのは、あとは自信だけだ。危険を目の前にしてこわがらない生きものなど、どこにもいやしない。本物の勇気というのは、こわいと思いながらも危険に立ちむかうことだよ。そしてそういう本物の勇気を、あんたはもうたっぷり持っている」

L・F・ボーム『オズの魔法使い』(河野万里子訳、新潮社、2012年、179頁)

 彼らは皆、自分の足りないものを知りながらも、それを求めて旅をした。その過程で、それぞれの望むものを自分の力で手に入れたわけですね。そして、「エメラルドの都に行ってオズ大王に頼めば、きっと願いを叶えてくれるわ」と、彼らを旅に誘ったのは、他でもないドロシーです。

 結局、「偉大なる魔法使い」だと思っていたオズ大王は、「偉大なるぺてん師」でした。彼は魔法なんて使えない。けれど、かかしもきこりもライオンも、旅の途中でもう「ほしいもの」を手に入れていましたから、何の問題もありません。あとは、彼らが自分を信じられるよう、ペテンにかけるだけでいい。でも、それができるのはオズ大王だけですから、やはり彼は「偉大なるぺてん師」なんですね。そしてこれこそが、「エメラルドの魔法」です。

 ロリゴシックも同じです。ユリカは「あのドレスを着れば、もう一度ファンの前に立つ勇気が持てると思う」と言いました。ロリゴシックのドレスは、「弱さ」を抱えたまま、それでも強くあろうとする女の子の背中を押してくれます。かかしやきこりやライオンをドロシーが旅に誘ったのと同じように、です。そして、ロリゴシックを着る少女たちは、自分の持っていないものを手に入れるために、一旦はロリゴシックのドレスという「魔法」に頼る。けれど、そうして「ほしいもの」を手に入れようと立ち向かううちに、本当にそれを手にすることになるわけです。

Somewhere over the rainbow way up high

There's a land that I heard of once in a lullaby

Somewhere over the rainbow skies are blue

And the dreams that you dare to dream really do come true

Judy Garland - 『Over The Rainbow』

さぁ 遠く虹の彼方へ

願いごとがあるなら

ほしいものがあるなら

たちむかわなくちゃ

『エメラルドの魔法』

 ところで、ちょっと個人的な話になりますが、最近トリガー代表取締役大塚雅彦が『リトルウィッチアカデミア』最終回に関して、「人間の成長とは人格が変わったり丸くなることではなくて、己を知ることなんだろう」*2と言っていて、なるほどなあと思ったんですね。アツコ・カガリは憧れに向かって突っ走るタイプの主人公ですが、なかなかシャリオみたいに上手く魔法が使えない。けれど、憧れに向かって努力する中で、だんだんと自分の強みや弱みを自覚するようになっていく。そしてそれを自覚した上で、尚も憧れに正直であり続ける。

 だから、前稿で「何かになりたい」と思う気持ちについていろいろと書きましたが、それはもちろん自分を捨てて何かになってしまえばいいという意味ではなくて、己をちゃんと知った上で、その己自身となりたいものとの間に表出するもの、この二点間に生ずる何ものかが大事なんだと思うんですね。そして、北大路さくらと大空あかりの「オリジナルスター」や、ロリゴシックの「強さ」は、きっとその表現の一面なのだろうと思うのです。もちろんこれは『アイカツ』に限った話ではなくて、アツコ・カガリも、緑谷出久も、苗木野そらも、藍華・S・グランチェスタも。あるいはこのセリフを引いてもいいかもしれない。「いつだって、何かを変えていく力は、“だとしても”という不撓不屈の思いなのかもしれない」*3

 

 話が大分逸れてきましたが、最後にもう一段回逸らしてみようと思います。藤堂ユリカと逆、というわけではないですが、『亜人ちゃんは語りたい』には、バンパイアの性質を持ちながらも普通の高校に通っている、小鳥遊ひかりというキャラクターがいます。彼女について、主人公の高橋鉄男先生がこういう事を言う。

確かにあいつは『バンパイアの性質』に即した行動はあまりしない

だがそれでバンパイアらしくない・・・・・と言われると

…それは違う

ひかりは人から血を吸いたい気持ちはあるがパックで我慢している

またバンパイアの嗅覚を上回ってなお匂いの強い食べ物が好き

そういった『人間性』があいつのバンパイアらしさ・・・・・・・・であり 人間としての個性・・・・・・・・

らしさ・・・は生まれ持った『性質』ではない

『性質』をふまえてどう生きるかだ

ペトス『亜人ちゃんは語りたい2』(講談社、2015年、28-29頁)

 これが、私の中での今のところの「らしさ」の定義です。そういうわけで、今度こそ本当に氷上スミレの話をします。

 

選びとった運命:氷上スミレの進む道

 先ほど述べたように、まずは108話「想いはリンゴにこめて」の話からいきたいと思います。とはいえ、これに関しても既にたくさんの素晴らしい考察がなされていますから、私からは一点だけ。それも表面的なことだけ。すなわち、何故魔夜はスミレにスノープリンセスコーデを託したのか、についてだけお話しようと思います。

 

 20話で魔夜はユリカに「今の君が、このドレスにふさわしいと胸を張って言える?」と尋ねました。今思い返すと、これはユリカを試すための質問だったといえます。模範解答は「今はまだふさわしくないけど、必ずふさわしいと言えるアイドルになる」といったところでしょう。ユリカは見事、魔夜の求める「強さ」が自分にあることを示してみせました。

 では、108話の場合はどうか。魔夜(とユリカ)がスミレにした質問はこうです。

魔夜 「実はそのリンゴ、付けるかどうか最後まで迷ったんだ。だって物語の中では、白雪姫を危機に陥れる毒リンゴ。白雪姫のドレスに付けるのはどうかなあって…」

ユリカ「氷上はどう思う?」

魔夜 「正直に言っていいんだよ」

 この時ユリカは何かに気づいたような反応をしますが、それについてもやはり素晴らしい先行研究がありますから、そちらに譲ることにします。*4ともかくここで私が言いたいのは、魔夜が白雪姫のドレスにリンゴを付けないわけがない、ということ。もちろん、「ロリゴシックのダークなイメージと毒リンゴはよく合うから」というイメージの話ではありません。

 “『アイカツ』におけるゴシック&ロリータは、「少女の夢や、底に潜む心の闇を自己表現するファッション」である”ということは、最初に確認しました。ですから、ロリゴシックのドレスも「夢」だけを表現したものではない。魔夜の作るドレスには「夢」と「底に潜む心の闇」、もっと平たく言えば、プラス要素とマイナス要素が、必ず含まれています。「弱さ」に立ち向かう「強さ」はもちろんのこと、強くなったユリカのドレスにも、「不可能性」と「夢 かなう」があしらわれているぐらいですから。そして、持っていないものを手に入れるための旅に誘うドロシーは、「これぞロリゴシックの王道」といえるようなモチーフになり得るわけです。

 ですから、『白雪姫』の物語から毒リンゴというマイナス要素を捨象し、純化された綺麗な夢物語に仕立て直してしまうことは、ロリゴシックの在り方に真っ向から反する。夢小路魔夜がそんなことをするはずがありません。「付けるかどうか最後まで迷った」なんて、毒リンゴよりも真っ赤な嘘です。

 そして、恐らく無意識的にではありますが、氷上スミレはこのことを理解していた。あかりやひなきと違って、彼女は108話の冒頭から一度もリンゴの存在に疑問を抱いていません。そして魔夜の質問に「変じゃありません!」と答えた。ここで少し話を戻しますが、108話で魔夜の屋敷に乗り込む前、ユリカはこう言っていました。

あんまり甘えてると血を吸うわよ!ロリゴシックのドレスは魔夜さんの魂!そのプレミアムドレスを着ていいのは、このブランドを愛し、理解し、その世界の住人になれる者だけ。私はそう思ってる。魔夜さんに会えるかどうかはあなた次第よ。頑張りなさい!

 ですから、魔夜の質問は、ロリゴシックを愛し、理解しているかどうかを試す質問だったわけです。そしてスミレは、見事にその「愛」と「理解」があることを証明してみせたのですね。

 しかしながら、これは「愛」や「理解」を試す質問ではあっても、「強さ」を試す質問ではありません。だから、この時スミレにドレスを託したことは、魔夜にとってある種の賭けであったように私には思えます。実際、スミレはモデルか歌かの二択を迫られた際、流されるような形で一度はモデルの道を選びましたから、108話時点のスミレが魔夜の求める「強さ」を持っていたとは、ちょっと考えにくい。

プロの人たちが、私にそれが向いてるって言ってくれるなら、それが私の得意なことなのかもしれない。あかりちゃんがお天気キャスターのお仕事に進んだみたいに、私も、モデルに進んでみようと思う。

第117話「歌声はスミレ色」 

けれど、最終的にスミレは自分の気持ちを信じて、自分の意志で歌の道に進みます。魔夜とユリカの見立ては正しかったわけですね。

スミレ「占いでね、行く手には深い霧が立ち込め、どの道を行けばいいのかわからないって出たの」

あかり「それ、いいこと占い的には?」

スミレ「先のことなんて誰にもわからない。だったら、自分のやりたいことをやりなさいってことだと思う」

あかり「そうだね!」

スミレ「あかりちゃん言ったでしょ?お天気キャスターのオーディション受けるとき、これがいいって思った自分の気持ちを信じて、進んでみようと思うって」

あかり「うん!」

スミレ「ありがとうね、自分の気持ちが分かったの、あかりちゃんのおかげだ。 私も信じてみる、自分の気持ち」

第117話「歌声はスミレ色」

 ところで、この歌かモデルかの分かれ道の話は、どことなく「ヘラクレスの選択」を想起させます。「美徳へ続く茨の道と快楽へ続く桜草の道を前にして、ヘラクレスは前者を選んだ」というあれです。安易な刹那的快楽に溺れず険しい茨の道を進めば、その先には美徳*5がある。これもまた、ロリゴシックとの親和性の非常に高いモチーフではないでしょうか。そして、この選択が『いばらの女王』へと繋がっていきます。

 スミレはスターライトクイーンカップに際して、歌を極める決心を再び強く固め、インタビューではっきりこう答えました。「私は、スターライトクイーンになって、歌でアイドルを極めます」。それを見た魔夜は、ニヤリと不敵に笑う。それからすぐにスミレを呼び出し、こういうことを言います。

魔夜 「インタビューに答えてるのを見てね、スミレがクイーンを目指すためのドレスを作りたくなった。歌一つで、自分に厳しくアイドルの道を切り開いていこうとする君に惹かれたんだ。さながら、いばらの女王。進む道も茨なら、スミレの心の奥にも、まだ恐れの棘があるでしょう。それでも進もうとする意志の強さを、ドレスで表したい。僕に作らせてくれないか」

スミレ「是非!お願い致します!」

魔夜 「ありがとう。着るからには、クイーンになってよ」

スミレ「はい!」

第166話「私が見つけた最初の風」

 夢小路魔夜という人は、本当に微塵もブレませんね。ファンが多いのも合点がいくというものです。そういうわけで、最後はやっぱり『いばらの女王』の話で締めましょう。

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アンニーバレ・カラッチ作『ヘラクレスの選択』(1596)

 

The Girl with the Thorn in Her Side

 SA(スペシャルエー)ランクのフィーバーアピールというのは、改めて思い返してみると、非常に難度の高いものでした。神崎美月*6は「一番難しいSAを成功させた人を、私はまだ見たことがありません」(174話)と言っていますし、新条ひなきのステージに対して織姫学園長は「SAランクのフィーバーアピールはまさに異次元の領域。そこに近づけただけでも、新条を讃えるべきでしょう」(176話)という発言をしています。ですから、これはもう端的に、途方もなく難しいことなわけです。にもかかわらず、何故スミレはSAランクにこだわり、挑戦する道を選んだのでしょうか。これには大きく分けて、2つの理由が挙げられます。

 まず1つめは、(これは誰もが口を揃えていうことですが)彼女の成長を描くにはこうするのがベストだったいうこと。117話の時点では彼女は挑戦を諦め、一旦はモデルの道(桜草の道)へ進もうとしていましたから、彼女の成長を描くには、“挑戦”をもってするしかないわけです。スミレが見つけた最初の風に対する回答は、それ以外にありえない。加藤陽一が「ステージで失敗する展開は、4年目が始まる時から決まっていました」と言っていたのも、やはりそういうことだと思います。

 そして2つめは、彼女がロリゴシックの世界の住人だから。これについても今更説明する必要はないですね。「いつかそこへたどり着けるかもしれない」と信じて努力する女の子が、SAランクへの挑戦を投げ出すはずがありません。

 本来ならこの話はここで終わりです。176話のフィーバーアピール失敗は、放送当時は否定的な意見もそれなりにあり、SNSなども騒然としていたけれど、よくよく考えてみれば氷上スミレの成長とロリゴシックの在り方を丁寧に描いていただけだった、というだけのことです。なんですが、ここはもうちょっと深読みをしてみたい。先に断っておきますが、これから述べる解釈は、それなりに無理のある解釈です。

 

 さて、まずは夢小路魔夜の発言を、もう一度確認しておきましょう。

魔夜 「インタビューに答えてるのを見てね、スミレがクイーンを目指すためのドレスを作りたくなった。歌一つで、自分に厳しくアイドルの道を切り開いていこうとする君に惹かれたんだ。さながら、いばらの女王。進む道も茨なら、スミレの心の奥にも、まだ恐れの棘があるでしょう。それでも進もうとする意志の強さを、ドレスで表したい。僕に作らせてくれないか」

スミレ「是非!お願い致します!」

魔夜 「ありがとう。着るからには、クイーンになってよ」

スミレ「はい!」

 魔夜は「着るからには、クイーンになってよ」と言いました。これはもちろん、「僕の作ったドレスを着るからには一番を目指してよ」という、そのままの意味でしょう。けれど、ただ単に一番になるだけであれば、実はSAランクのアピールを出す必要はなかった。解説を務めた神崎美月はこう言っていました。

氷上さんは、フィーバーアピールの中でも最も難しいSAランクに挑戦したんです。やらなくてもトップを狙えたにも関わらず、挑戦することを選んだ。その姿勢は素晴らしいと思います。

第177話「未来向きの今」 

 もちろん、あかりがSAランクを出す可能性はありました。けれど、現実的に考えると、今まで成功例が1つもないようなことを最後の1人が成功させる可能性は、限りなくゼロに近い。我々の立場から見れば「大空あかりは主人公だから出すかもしれないなあ」と言うこともできますが、あかりはスミレのステージを受けて「やりきってくる、私も」と言ったわけですから、もしスミレが無難にAランクを狙っていれば、1位スミレ、2位あかりという結果もあり得たかもしれません。メタ的な視点に立ってさえ、そういうことになるんです。

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 まあともかく、彼女は挑戦することを選びました。当たり前ですが、これは本当に怖いことです。3年連続スターライトクイーンという前代未聞の偉業を成した人が、「まだ見たことがありません」と言うようなことです。しかも、「やらなくてもトップを狙えた」わけですから、もうデメリットだらけです。モデルの道に進もうとしていた時の彼女なら、挑戦を選ぶことはなかったでしょう。けれど、成長した氷上スミレは挑戦することを選んだ。そして結果は、アピール失敗でした。

 さて、この時のことをよく思い出してみてください。某プロ野球選手のことは思い出さなくていいですよ。

 「王冠の色に染められ」のところで、スミレはアピールに失敗し、一度床に倒れてしまいます。恐らく、かなりのショックだったと思います。このステージのために人一倍努力を積んできたにもかかわらず、この時点でスターライトクイーンへの夢は絶たれてしまったわけです。けれど、スミレはすぐに立ち上がり、再び歌い始める。そうです。彼女はロリゴシックが似合う女の子ですから、毅然と凛々しく、顎はツンと上向きに。アピールに失敗したぐらいでへにゃへにゃしちゃう女の子じゃない。そして、「凛としてステージの上 私 いばらの女王」と歌い終わった瞬間、オーラが復活します。凛とした表情を浮かべ、堂々とステージに立つ彼女の姿は、恐れの棘と闘ういばらの女王そのものです。失敗をものともしないその姿は、本当にかっこいい。ですから、私にはどうしてもこう見えます。この瞬間、彼女はいばらの女王クイーンになった、と。

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 この解釈が妥当なものか、飛躍しているのか、私にはよくわかりません。けれど、魔夜の言った「着るからには、クイーンになってよ」は、なぜだか「スターライトクイーンになってよ」という意味に聞こえない。「恐れの棘と闘ういばらの女王になってよ」の方がロリゴシックらしいと思ってしまうんです。

 

その声が地図になる

 そろそろまとめます。さっきは引用しなかったのですが、89話にはこういうセリフがありました。

私が強くなれたのは、「大好きなロリゴシックのドレスでアイカツしたい!」って気持ちがあったから。もしも今とは違う自分になりたいなら、まずは少しだけ自分を変えてみるの。いつもより10分早起きするとか、勇気を出して今より大きな声でおはようって言ってみるとか。かわいいお洋服をね、着てみるのもいいかも。そしてある日、鏡を見るの。きっと違う自分、憧れていた自分に会えるから。やってみて!*7

 けれど、藤堂ユリカでさえスキャンダルに負けそうになったことがあるわけですから、私たちもきっと、何かに負けそうになることがあります。だからこそ、氷上スミレはこう歌うんですね。

もし今あなたが 迷って泣いてるなら

ここへきて 地図をたしかめ ドレスに着がえ出かけましょう

 最初から強いわけじゃない私たちは、進む道を決めて、少しずつ自分を変えてみても、きっと迷ってしまうことがある。けれど、そういう時は一度ここに戻ってこればいい。そして、もう一度進む道を確かめ、勇気をくれるロリゴシックのドレスに着替えて、それからまた出かければいい。今はまだ幼い子どもたちも、いつか闘うべき時が来たら、彼女たちの姿を思い出すのだと思います。そして、「あの時ユリカ様が言ってたみたいに毎日頑張ろう」、「あの時のスミレちゃんみたいに私も挑戦する」と、地図をたしかめて歩いていける。「逆位置の意味ならば挫折になるとしても 夢や光や歌が美しいことを伝えた」彼女たちの偉大さは、どれほど強調しても足りません。

 そういうわけで、最後はやっぱりこの言葉で締めましょう。

涙に傘をさす 笑顔はホンモノで

いつでも あこがれが最初の道しるべ 

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*1:新潟県とサントリーが「青いユリ」の共同開発に成功

*2:Newtype』2017年8月号(角川書店、138頁)

*3:戦姫絶唱シンフォギアAXZ』第10話「アン・ティキ・ティラ」

*4:「アイカツ!108話「想いはリンゴにこめて」 リンゴにこめられた3つの想い」 - 末吉日記

*5:シェイクスピアの『ハムレット』では「天国へ続く険しい棘[いばら]の道」(the steep and thorny way to heaven)という言い方をしています。(第一幕 第三場、訳は河合祥一郎氏に拠る。)

*6:ご存知の通り、この人はスペシャルアピールを1曲中に4回出すという偉業を成した人です。

*7:本当にただの個人的な感想なのですが、私はここが『アイカツ』で一番の名シーンだと思っています。

目覚めてる夢に向かって:ソレイユと『Good morning my dream』(改訂版)

紙媒体向けに編集していたことと、40話「ガール・ミーツ・ガール」を観返していて思うところがあったことと、とにかくいろいろあって書き直しました。すいません。一応以前に書いた「3つの星と新しい輝きのメロディー」の続きになります。(2017.07.23)

 

 さて、「3つの星と新しい輝きのメロディー」では “〈夜空→太陽〉への移行は明日へ向かうことである”という話をしました。この記事では、その“動き始めた”太陽の軌道を追っていきたいと思います。

 先に断っておきたいのですが、『Good morning my dream』は、取りも直さず『あかりジェネレーション』の歌です。いちご世代とあかり世代のテーマの相違については以前に書きました。しかしながら、ここでは敢えて“ソレイユ”という人称を固定して『Good morning my dream』を読むということを試みたい。この意図は、歌詞の意味を解釈し固定することではなく、歌詞を通して物語を照らすことにあります。

 

 では本題に入りましょう。『Good morning my dream』にソレイユという人称が介入すると、「朝」という言葉に新しい意味が浮かび上がってきます。すなわち、朝というのは太陽が昇る時ですから、これはソレイユが動き出したことを歌っている歌だということになるわけです。ソレイユの掛け声は「ソレイユ ライジング!」でした。「新しい服に着替え」、「未来ごと深呼吸」して、「南の空」へと向かっていく。そんな彼女たちの緊張と高揚感が読み取れます。

 より具体的に本編と重ねて言及していきましょう。

大事な決意はきっと ずっと前にしたの

今までと、これからに いちばん似合う朝を待っていたね

 このパートを歌っているのは紫吹蘭です。ソレイユ結成に際しての蘭についてのあれこれは、に述べました。“3人でライブに出ようとはじめて言い出したのは蘭だった”ということも確認しました。ですから、「大事な決意」はきっと、その頃から固まっていた。「今までと、これからに いちばん似合う朝」=ソレイユ結成の瞬間を、彼女はずっと待っていた。もちろんこれは、紫吹蘭1人だけの夢ではありません。「夢にあつまって」スターライト学園で出会い、そこではじまった毎日の中で、3人の夢=ソレイユは「目覚めてた」のです。ここで“friend”と“dream”は、ほとんど同じ意味を持つことになります。なぜなら、彼女たちの夢は、日常の中で生まれた、日常と地続きのものだから。そして「ソレイユを続けること」自体が夢なのだから。したがって、その形になった大きな夢に対する挨拶は「おはよう」でしかあり得ないということになるでしょう。 

扉をあけて出会いにいくよ

(いちご)夢にあつまって

(蘭)はじまる毎日

(あおい)目覚めてたmy dream

おはよう、わたしの大切なfriend 

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 さて、続くは2番のAメロですが、ここはもう言うまでもないかと思います。

あの時ね気づいたの これだってわかったの 世界が生まれかわるくらい

大きな声で呼びかけた 振り向いて欲しくて

 ここを蘭が歌うと、「あの時」が37話「太陽に向かって」のあの時だということになってしまう。自分の進む道を自分で決めた、「これだってわかった」あの時の変化は、まさに「世界が生まれかわるくらい」のものでした。

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 ところで、これは本当にどうでもいいことですが、私の推しは霧矢あおいです。でも、ソレイユの話をすると、不思議なぐらい紫吹蘭の話ばかりになってしまう。それだけ蘭の成長・変化はソレイユ結成と不可分なのだということだと思います。

 というか、そもそもいちごとあおいに関していえば、ある意味では一切の迷いもなかったかのではないかとさえ思うことがあります。ここで、編入試験合格後、はじめて学園の門をくぐる時のいちごとあおいのやり取りを思い出してみましょう。 

あおい「この門を越えたら、私たちのアイカツが本当にはじまる。いちご、一緒に頑張ろうね」

いちご「うん。やるからにはやる!一緒にトップアイドルになろう」

あおい「……どんなことがあっても友達だよ、いちご」

第2話「アイドルがいっぱい!」

 初期は一緒に上がっていけるかどうか、思い悩んでいた時期でした。美月や蘭に厳しい言葉を言われたこともありました。けれど、いちごとあおいはきっとずっと前から、それこそ小学5年生の夏から、根幹はブレていなかったのではないかと思います。

 ここで一度事実確認をしておきましょう。星宮いちごがスターライト学園に入ったきっかけは、紛れもなく霧矢あおいです。もちろん美月のステージを観て憧れたことも大きな理由ではありますが、あおいに誘われなければそもそもステージを観に行くことすらありませんでした。編入試験を受けようと誘ったのも、やっぱりあおいです。

 そして、霧矢あおいがアイドルになりたいと思ったきっかけも、やっぱり星宮いちごです。他ならぬいちごが、あおいを「見る側」から「見られる側」に引きずり込んだのでした。

あれは私がはじめてステージに立った瞬間で、はじめて見る側から、見られる側に回った瞬間。それからなんです。アイドルになりたいと思ったのは。今日まで私を導いてくれたのは、親友の星宮いちごなんです。

第40話「ガール・ミーツ・ガール」

 つまりどういうことかというと、レジェンドアイドルの血を引くいちごや、「アイドル博士」と呼ばれるあおいを突き動かしたのは、“血筋”でも“憧れ”でもなく、“友達”であるということです。導いてくれた親友を、2人が一瞬でも忘れたことがあったとは私には思えません。

 もちろん、2人の関係はここで終わるわけではありません。そこからはじまる毎日がある。新しく出会う仲間がいる。新しく目覚める夢もある。「光の向こうは 世界とつながる」のです。

 さて、かくして出会った3人の「目覚めてた」夢は、37話で形を成し、南の空へと動き始めました。その際、太陽に向かって走ってきた蘭が言った一言を、皆さんは覚えていますでしょうか。 

 

一緒に走り続けたい、仲間がいるから

 

 もうこれ以上の説明は野暮というものでしょう。全ては歌が語ってくれています。

扉をあけて出会いにいこう

(あおい)光の向こうは

(いちご)世界とつながる

(蘭)駆け出してmy dream

どこまでもキミと走っていたい  

 

 

 そして、駆け出した夢は、「ソレイユを続けること」という、進行形の「目覚めてる」夢になりました。最後は、その「目覚めてる」夢の向かう先を見据えて終わりたいと思います。

あおい「経験したことのない、大規模なツアーだけど」

いちご「きっと走りきれる、あおいと蘭が、隣にいてくれるから」

あおい「私も、いちごと蘭と一緒なら、怖いものなし!」

蘭「ああ、あたしもだ!一緒に走りきって、ずっと一緒に走り続けたい」 

いちご「いつの間にか、それは私たち3人の夢になってたね」

蘭「ああ、ずっと前から決まってたみたいにな」

あおい「じゃあ!どこまでも走っていっちゃいましょうか!」

3人「ソレイユ ライジング!」

第125話「あこがれの向こう側」

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 ここで、『Wake up my music』のこの歌詞を思い出してみましょう。

繋いだ手のひらはもう 自然なカタチ

少しずつ、でも最初から 決まってたみたい  

 「ずっと前から決まってたみたい」な夢を走りはじめたソレイユの3人は、この先何があっても、もう大丈夫なのだと思うのです。だって織姫学園長と星宮りんごは、あるいは神崎美月と夏樹みくるは、今でも一緒に走り続けているのですから。

 そんなマスカレードの世代からあかり世代までずっと受け継がれてきたSHINING LINE*を30分に詰め込んだようなエピソードが、173話「ダブルミラクル☆」でした。ソレイユの夢の成功を祈る意味でも、同話からの引用で、ここはひとまず締め括りたいと思います。

織姫 「ステージで心を一つにしたものは、いつだってまた一緒になれるわ」

りんご「私たちみたいにね」

第173話「ダブルミラクル☆」

 

3つの星と新しい輝きのメロディー

 トライスター編は、誤解を恐れずに断言すれば、異質です。『アイカツ!』全体を通してこれほどシリアスなエピソードは他に例がありません。木村監督は「コメディーはコメディーでも、重たいコメディーにはしたくないと思って、すみずみまで気を使いました」*1と言っているのに、トライスター編ははっきり言って重たい。神崎美月が悪役として嫌われてしまう可能性だって考えられるし、トライスター結成後の忙しさの演出も、蘭の退寮や深夜まで続くレッスンなど、不自然に感じてしまうほどに過剰です。ですが、『アイカツ!』ほどの作品が、意味もなく物語をシリアスにし、「かわいそう」なキャラクターに強制的に感情移入させ、徒に涙を煽るようなことをするはずがありません。では、トライスター編は何故必要だったのか。トライスター編に纏わるユニット結成の意義とキャラクターの成長を考えてみたいと思います。

 

 まあ大方はソレイユの話です。まずは、第35話「涙の星」の公開面接での、星宮いちご、霧矢あおい、紫吹蘭それぞれの受け答えを見てみましょう。

 いちごは、面接開始直後頭が真っ白になってしまいましたが、あおいと蘭のことを思い浮かべ、乗り切ることができました。さらに面接中、あおいがスターライトに誘ってくれたことや、蘭が自分の目を覚ましてくれたことなどを語り、いい親友に恵まれたことだけは自信があると明言しています。

 あおいは、いちごと蘭と共に最後の3人に残れたことの喜びを語り、今の自分は「ヘビとマングースに睨まれて生き残ったハムスターみたいな気分」だと言います。そして、いちごと蘭のアイドルとしての才能についてどう見ているのかを美月から尋ねられ、2人の魅力を熱心に語りました。

 ところが蘭の場合は、他の2人の面接では最初に訊かれていた「最後の3人に残れた今の気持ち」についての質疑が描かれておらず、いきなり蘭が「紫吹蘭が加わったら…」と最後の質問に答えるところから面接のシーンがはじまります。ここでは、いちごやあおいのことに関しては一切触れられていません。

私にとっては、ステージが自分の居場所なんです。隣に誰が来ても、誰と組んでも、例えトライスターに加わっても、紫吹蘭は紫吹蘭です。

 まるで自分を無理矢理説得し、丸め込もうとしているようなセリフです。大嘘です。35話のホットケーキのシーンを見ても、第24話「エンジョイ オフタイム」を見ても、そんなことは火を見るより明らかです。実際、トライスターで蘭がミスをした際に、美月は「あなたらしからぬミスね」(第37話)と言った。「隣に誰が来ても、誰と組んでも、例えトライスターに加わっても、紫吹蘭は紫吹蘭」だなんてことは全くなかったわけです。

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  思うに、蘭はまだ自分の気持ちに素直になれていなかったのではないでしょうか。「確かにいちごやあおいといると楽しい。でも、アイカツは遊びじゃないんだ。」といったような具合で。そんな蘭が「あたしが探してた言葉」は「頑張ってね」じゃなくて「頑張ろう」だったのだと気づくためには、一度2人から引き離される必要があった。蘭が自分の気持ちに気づき、自分の意志で自分の居場所を決めなければ、ソレイユ結成の意味がないのです。

 

 ソレイユといえば『ダイヤモンドハッピー』です。この曲が第37話「太陽に向かって」において、劇中ではじめて歌われたことには大きな意味があります。

熱く確かな世界 動き始めた
そうだ私の世界
進め大好きな世界 とまらない鼓動
これが私の世界

動き始めた「熱く確かな世界」、「大好きな世界」を「私の世界」だとはっきり言えるようになったことが紫吹蘭の成長であり、ソレイユ結成の意義なのです。

 ちなみに、3人でライブに出ようとはじめて言い出したのは、実は紫吹蘭でした。

でも、ありかもな…。出てみるか?3人で、スペシャルオーディション。〔中略〕あたしも、なんか2人と一緒に闘ってみたくなった。(第8話「地下の太陽」)

 そして、第9話「Move on now!」ではじめて3人でステージに立ち、『Move on now!』を歌いました。この時のステージに上がる前のかけ声は、「明日へ向かってMove on now!」でした。

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 そして、37話で美月が蘭に送ったメールには、次のようにあります。

蘭の心にこれ以上雨がふらないように、蘭にはトライスターを外れてもらいます。

あなたには太陽のもとでかがやいていてほしいから!

私の夢であなたの夢を振り回してしまって、ごめんなさい。

いつも、夜空からあなたたちをみています

行く道は違っても、お互い同じ空で輝きましょう。

 夜が明け、太陽が昇るということは、明日が来るということです。37話で蘭は、文字通り太陽に向かって走りました。トライスターという夜空からソレイユという太陽に向かって、「明日へ向かってMove on」したのです。そして再び手を重ね、「これからは3人一緒に輝こう」と言った。

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  世界一硬い鉱物と考えられているダイヤモンドには、「永遠の絆」という宝石言葉があり、「壊れることのない変わらぬ気持ち」や「確かなるもの」を表します。*2 ソレイユとは、まさにこれからを照らす「永遠の絆」の太陽であり、自らの意志で明日へと向かう「新しい輝きのメロディー」なのです。

上を向けば太陽キラリ
まぶしくなれもっとね
君は光るダイヤモンド
新しい輝きのメロディー

 

 さて、このエピソードを通して大きく成長した人物がもう1人います。神崎美月です。美月がトライスターの3人目のメンバーに蘭を選んだ理由は、次のようなものでした。

私がアイドルユニットを組むからには、そのメンバーは、一人でも強く輝ける力を持つ人でなければと考えました。そして、オーディションの紫吹蘭の姿に、そのプロ意識が見えました。(第35話「涙の星)

 初期の神崎美月は、徹底した実力主義です。レベルの合うアイドルがおらず、1人でトップに立ち続けていた彼女が「一人で輝ける強さがあるかどうか」をユニットメンバー選出の基準にしたのは、当然の成り行きといえるでしょう。そして、蘭を「一人でも強く輝ける力を持つ人」だと判断し、トライスターのメンバーに選びました。ところが、それは間違いだったと気づく。単に強い光が集まればいいのではないのだと。ここから、神崎美月の成長物語がはじまります。

どんな惑星だって ひとりぼっちで

輝けるわけじゃない

 結局、美月はトライスター3人目のメンバーに、藤堂ユリカを選びました。あれだけ大規模なオーディションを行い、徹底的にふるいにかけて力のある人物を選び出したのにもかかわらず、ふるい落とされた側の人間を選んだのです。

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 ユリカは、単に力不足で脱落したのではありません。吸血鬼キャラを死守して、言い換えれば、自分だけの輝きを守って脱落したのです。そんなユリカを美月は選んだ。輝きの強さだけでなく、一つ一つの輝きそれ自体に目を向けるようになった証拠です。もしかえでとユリカの相性の良さも見抜いていたのだとしたら、これはものすごい成長です。そして、この成長はスターアニスへと繋がっていくのです。

夜空に輝く北極星は、3つの星が重なり合って一際目映く輝いている。私たちも一つになれば、きっとどこまでも大きく輝くことができる。この夏一番光り輝く、スターアニスという星に。(第41話「夏色ミラクル☆」)

 第41話「夏色ミラクル☆」で、みんなで同じ部屋に泊まりたいとリクエストしたのは、他でもない神崎美月でした。ずっと1人でトップを走り続けていた美月は、「ひとりだけれど独りではないスタート」へと進んでいくのです。*3

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 同じく41話で停電に見舞われた際、美月はその場で、おとめとかえでのマジックショーや、さくらの生け花、蘭のウォーキング、いちごとユリカの漫才(会話?)、あおいの「美月ちゃんクイズ」を発案し、電気を使わずに観客を楽しませます。その姿にいちごは強く感銘を受けたのでした。

美月さんはやっぱりすごい。私たち一人一人をちゃんと見てくれていて、ファンのみんなだって、こんな笑顔に。

 その後、美月は輝きを見つける側であるプロデュースに興味を持つようになり、スターライト学園を去った後、ドリームアカデミーのアドバイザーに就任します。

あなたたちと過ごした日々は輝いていた。でも、先輩としてもっと上手に後輩のあなたたちを導けたんじゃないかって思ってたわ。そう考えるうちに、プロデュースに興味を持ったの。(第63話「紅白アイカツ合戦!」)

 そして、最終的に彼女が選んだパートナーは、夏樹みくるでした。みくるって、言ってしまえばアイドル素人です。ど素人です。あの実力主義の神崎美月が、アイドルですらないみくるをパートナーに選んだ。彼女の輝きに気づくことができた。ここに美月の成長が集約されています。

いちごはたくさんいっぱいいろんなことを気づかせてくれた。そんな、いちごからもらったいっぱいで紡いだ翼を羽ばたかせて、私は新しいアイカツをスタートさせる。〔中略〕新しい私だけの、私自身で立ち上げた事務所から、ユニットで。(第78話「ミラクルはじまる!」)

 なんとも見事なのは、トライスターという3つの星が、スターアニスという3つのユニットの結び合せに繋がり、その「夏色ミラクル」が夏樹みくるへと繋がっているという点でしょう。涙の星にはじまった神崎美月の物語は、夏色のキセキに出会い、花の涙で一旦その幕を下ろしたのです。

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*1:アイカツ!オフィシャルコンプリートブック』(学研パブリッシング、2014年、126頁)

*2:ダイヤモンドの宝石言葉

*3:第42話「船上のフィナーレ☆」のいちごとかえでの会話が、『ヒラリ/ヒトリ/キラリ』の歌詞と呼応している点も見事。スターアニスの活動はいちごの「ひとりだけれど 独りではない スタート! 進むためのレッスン」にもなっている。

『START DASH SENSATION』から大空あかりの物語を読む (改訂版)

※あまりに出典不明瞭な箇所が多いので、「目覚めてる夢に向かって」に続いてこちらも修正しました。(2017.07.25)

 

 『アイカツ!』という作品の大きな特徴の一つとして、物語と楽曲の関連性の高さが挙げられます。「アイドルオーラとカレンダーガール」「目指してるスター☆彡」「私が見つけた最初の風」など、曲名や歌詞の一節をサブタイトルにした話も多く、ステージシーンで使われる楽曲も、キャラクターの成長や個性の表現に欠かせないものとなっています。

 本項の主旨は、そんなアイカツ楽曲の歌詞を分析することで、物語への理解を深めようというものです

 当然ですが、ここで述べることは一つの解釈であり、絶対的なものではありません。というかそもそも正解なんてありません。『アイカツ』という作品をより深く理解し、自分なりの見方を構築する助けとなる一つの視点を提供できればと思います。

 

1)『オリジナルスター☆彡』と『START DASH SENSATION』

 さて、大空あかりのスタートと呼べる地点はいくつかありますが、77話「目指してるスター☆彡」もその一つであるといえるでしょう。星宮いちごの真似ではない、大空あかりというアイドルのはじまり。「自分の光を大事にしなきゃ」と決心し、おしゃもじを机にしまい、思い切って髪を切ったのでした。このエピソードと『オリジナルスター』は、あかりと『START DASH SENSATION』とについて考える上で、欠かすことができません。

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 『START DASH SENSATION』は『オリジナルスター』のアンサーソングとしての一面をもっています。『オリジナルスター』の歌詞にはこうあります。

なりたいビジョン 自由自在に
いつか絶対!
自分との約束
オリジナルスター 目指していこう☆彡

そして『START DASH SENSATION』には

アタマのなか膨らむイメージ
カタチにしたら世界でひとり
あたらしいわたしになれる
大好きで育てなくちゃ

こうして並べてみると、対応していることがわかります。自分だけの光、オリジナルスターを目指そうと志した77話から、生まれかわって「世界でひとり」の「あたらしいわたし」になった177話までの物語が、ここには凝縮されています。

 すると、次の「未来向きの今をキミに見せるね」は、77話時点の自分自身に宛てたものとも解釈できますし、その後に「いつだってココロに光る太陽 忘れないの」とあることから、いつでも「最初の道しるべ」として心に光り続けているいちごへのメッセージとして読むこともできます。

 続くサビの「もっと違う空に会える」「はじまる夢と はじめるキセキ わたしを待っている」などの歌詞は、未来の自分、過去の自分、どちらに向けたものとしても解釈が可能です。「もっと違う空に会える」のところは、97話「秘密の手紙と見えない星」のエピソードを踏まえると、とても感慨深いものがありますね。ここで、歌詞が未来と過去の両方へ向けられているということは、『アイカツ』という作品を考える上で重要な要素になってきます。


2)第12話「WE WISH YOU A MERRY CHRISTMAS!」と『START DASH SENSATION』

 『START DASH SENSATION』の歌詞は、物語のラストを決めてから発注していて、2番Aメロの「キミ」は、大空あかりから見た氷上スミレのことなのだということは、公式に言及されています。

加藤 だから4年目OPの「STARTDASH SENSATION」の歌詞は、ラストが決まってから発注していて、2番の頭に出てくる「キミ」はあかりから見たスミレのことなんですよ。

木村 スミレの順位は何位でもよくて、どの順位だろうがカッコ良く見えるようにしなければいけないし、そうなるだろうと思っていました。

アニメージュ』2016年5月号 (徳間書店、63頁)

 このことを踏まえると以下の一節に、『アイカツ』らしい、キャラクターの成長を描くことへの並々ならぬこだわりを見ることができます。

キミが見つけた最初の風を
いつか見失いそうな時は
一緒に探せるような
わたしになっていたいな

 あかりの原点は12話「WE WISH YOU A MERRY CHRISTMAS!」にあるといえるでしょう。「友達を笑顔にしたいちごちゃん」に憧れて、あかりはアイドルを志すようになったのでした。だとすれば、彼女のひとまずのゴールは「友達を笑顔にすること」だということになります。そしてそのゴールは、177話「未来向きの今」のステージを通して、アピールに失敗し落ち込んでいたスミレを元気付けることによって達成される。ここではじめていちごと並び立ち、また新しいスタートを切ることができるというわけです。いちごと並び立つということは、大スター宮いちごまつりでの「おいで。時間かかってもいい。よじ登っておいで!わたし、てっぺんで待ってるから」への回答にもなっています。178話「最高のプレゼント」では、二人はまさに崖のてっぺんで合流したのでした。こういったストーリー構成の丁寧さが、『アイカツ』という物語に説得力を持たせているのでしょう。

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 ここでさらに注目すべき点は、176話でスミレが失敗したことと、177話までのあかりの物語とは、一切関係がないというところです。

——クイーンカップでスミレが8位に終わる展開が意外に思えました。

加藤 何位にするかというより、ステージで失敗する展開は、4年目が始まる時から決まっていました。監督から友達のためのステージにもなるようにしようと。

木村 ユウと絡める話を作れたらと思っていたんですけど、今はスミレのほうがあかりに近い存在だし、スミレを使うのが自然でしたからね。

アニメージュ』2016年5月号 (徳間書店、63頁)

 スミレが最後に挑戦して失敗し、カッコ良く終わるということは、最終回のストーリーが作られる以前から決まっていた。そして、あかりが最後に笑顔にする友達の候補には服部ユウが挙がっていた。けれど、「今はスミレの方があかりに近い存在だし、スミレを使うのが自然」だったからという理由で、笑顔にする友達はスミレに決まった。ここには「主人公の物語を綺麗に終わらせるために誰か他の人を失敗させよう」などといった、ストーリーのためにキャラクターを恣意的に動かすようなプロセスが一切ありません。あくまでもキャラクター1人1人の成長を中心にストーリーが考えられている。そしてそれは、CGモデルや歌唱担当を持たない服部ユウに対しても同じであるということがわかります。ユウは178話であかりの応援に駆けつけ、天羽まどかに「あかり先輩の大の仲良し」として紹介されたのでした。ユウの登場と紹介のされ方に涙してしまった方も多いのではないでしょうか(私は泣きました)。こうした妥協なきキャラクターへの愛が、『アイカツ』の登場人物一人一人に血を通わせているのです。 

 歌詞に戻りましょう。続くBメロの「あの日」もいろいろな解釈ができます。「教えてくれたんだ今日の笑顔」に繋げるとすれば、12話、77話、97話あたりがやはり妥当でしょうか。「あの日があって今が最高になる」の部分がスミレパートだということを考えると、スミレが177話のあかりのステージを思い返して歌っているようにも聞こえますし、「あの日」を117話「歌声はスミレ色」として解釈することもできるでしょう。誰が歌うか、いつ(どの話で)歌うかによって意味が変動することに、歌詞ならではの魅力があるのだとも思います。

 2番サビの「何度も生まれかわろう」とか、非常に感慨深いところですね。大空あかりは、髪型の変化が象徴しているように、何度も生まれかわってきたアイドルです。星宮いちごという存在を知り憧れを抱くようになったことも、スターライトに入学したことも、とにかく一つ一つの出来事が、彼女にとっては「今日が生まれかわるセンセイション」だったのでしょう。「今日が生まれかわる」というフレーズは『アイカツ』全体のテーマを反映しているようにも思います。そのあたりのことはまた最後に詳しく考察したいと思います。

 

3)『アイカツ!あかりGeneration』と『START DASH SENSATION』

 突然ですが、いちご世代*1とあかり世代ではテーマが異なります。少なくとも、主人公が違うことによって、物語のテイストに差異が生じています。

 101話以前と102話以降のあかりの置かれた環境を比べてみてください。101話までは、あかりの周りはあこがれの先輩達ばかりでした。まだ駆け出しのあかりは、いちご世代のアイドル達の後輩役であり、影響を受ける側の存在でした。ところが102話以降、あかりの立ち位置は一変します。いちご世代のアイドル達はあまり登場しなくなり、同学年の仲間や年下の後輩達が登場するようになります。そして、あかりは影響を与える側として描かれるようになります。

 また、あかり世代のキャラクターはいちご世代に比べて“あこがれ”という要素が希薄であるという特徴があります。例えば、スミレは藤堂ユリカのポスターを寮の部屋に貼っていますが、「いちご→美月」や「あかり→いちご」のような強烈な憧れを抱いていたというエピソードはありません。天羽まどかも、同じAngely Sugarを着るいちごと絡めたエピソードなんかがあってもおかしくはないのですが、そういった描写はあまりありません。このようなことから、あかりジェネレーションでは“あこがれ”という要素は意図的に抑えられ、“友達”や“仲間”の方に主題が置かれていると見ることができます。そしてこのテーマの移行は、あこがれを追いかけた先で生まれかわって「世界でひとり」の「あたらしいわたし」になったあかりの物語とリンクしているように思います。ここで、あかりジェネレーション最初のEDが『Good morning my dream』であったことを思い出してもいいでしょう。『Good morning my dream』では扉をあけた先で出会った仲間のことが歌われています。

 では、以上のことを踏まえた上で、『START DASH SENSATION』のCパートを見てみましょう。

(ひなき)未来向きの今をキミと走ろう
(スミレ)いつだって、ここから、あたらしい夢
(あかり)どこにだって行けるよ!
(START DASH!!)

 あかりジェネレーション最初のED曲である『Good morning my dream』には「どこまでもキミと走っていたい」というフレーズがありました。それが、最後のOP曲である『START DASH SENSATION』では、「未来向きの今をキミと走ろう」になっている。願望から意志へと変わっている。これが『アイカツ!あかりGeneration』の物語なのです。

 

4)『アイカツ!』と『START DASH SENSATION』

 『START DASH SENSATION』は『アイカツ』最後のOP曲であると同時に、最後の挿入歌でもあります。最後に、『アイカツ』全体の締めくくりの歌として『START DASH SENSATION』を考えてみましょう。

 最終回が放送された時、「アイカツは終わってしまったけれど、悲しい気分にはならなかった」というような意見をSNS等で多く見かけました。私も放送前はかなり落ち込んでいたのですが、放送が終わった後は、不思議と明るい気持ちになっていたのを覚えています。しかし、これは制作の主旨を考えれば、ある意味では当然のことといえます。『アイカツ』は東日本大震災を転機に、「皆で一緒に笑いながら身近な幸せを改めて感じ、明日を信じる力、未来への夢を持てる作品」を目指して作られたのでした。

ネガティブな出来事も起こりえるレトロなスポ根路線は消えてなくなり、代わりに、「皆で一緒に笑いながら身近な幸せを改めて感じ、明日を信じる力、未来への夢を持てる作品」が必要だろうということになったんです。「トップアイドルを目指すスポ根サクセスストーリー」の部分はそのままに、「温かくて前向きな気持ちになれる作品を作ろう」と、企画をブラッシュアップしていきました。この段階の企画書に書いてあることは、現在のところほぼすべてが、作品内で実現しています。あの震災が、『アイカツ!』という作品にとっての転機だったと思いますね。

アイカツ!オフィシャルコンプリートブック』(学研パブリッシング、2014年、130-131頁)

 ですから、最終回を観終わった後に「未来への夢を持てる」終わり方をしなければならない。そういうことを考えて178話の脚本や演出は練られたのだと思います。

 あかりは、自身の物語の締め括りとして、スタートの歌を歌います。あかりの物語の終わりには同時に始まりがあります。そして、前にも述べましたが、あかりは何度も生まれかわってきたアイドルです。

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 同じように『アイカツ』も、見た人の今日が生まれかわり、「明日を信じる力、未来への夢を持てる」ようにと意図して作られました。ですから、『アイカツ』最終回も、終わりであると同時に生まれかわった毎日の始まりでなければなりません。明日に繋がるものでなければなりません。彼女達が駆け抜ける毎日が懐かしくなってしまっても、わたし達は立ち止まってはいけない。生まれかわった「ここがスタートライン」なのだから。

 1項に、“『START DASH SENSATION』の歌詞が未来と過去の両方へ向けられているということは『アイカツ』という作品を考える上で重要だ”と書いたのはそういうことです。あかりの物語の終わりに「START」があるように、『アイカツ』の終わりは「スタートライン」でもある。そして、わたし達はここから、「未来向きの今」から、「どこにだって行ける」。もちろんこの感覚は、その場しのぎのものではありません。それは「ずっと続いていくセンセイション」なのです。

 

*1:あかりジェネレーションより前、101話までの世代をここではこう呼称することにします